2007年6月9日 (第2816回)

日本人のイタリア紀行-西欧文化の根源へ

文学部 教授 中川 成美

 明治以来、日本人知識人が欧米の国々にもった感慨は様々です。その高度な文化達成に憧憬の念をひたすらに抱く人、反撥して日本固有の文化に固執する人、あるいはそのどちらにも同化し得ないままに非西欧文化圏に赴いた人。こうした外国文化の受容と反撥、懐疑自体が、日本人の持つ西欧文化観ではないかと思うほどに多様な旅行記やエッセー、作品が日本文学史のなかには記されています。

 今回はイタリアという西欧にとってもまた特化された場所を採り上げて、日本人文学者や知識人の軌跡を追ってみたいと思います。いまの、日本におけるイタリアブームの出発を検証してみることによって、二十世紀が辿った帝国主義的版図の光と影に迫れればとも思っています。そこには様々な人間の声がこだまして、いまの私たちを照らし出してくれることでしょう。