語学編

中国語の学び方

1. 国際関係学部で中国語を学ぶ理由

(1) 得られる情報量が圧倒的に違う

中国に対して少しでも興味を持っているなら、中国語がぜひとも必要だ。なぜならば、中国について、日本語で得られる情報の量と、中国語で得られる情報の量とは、圧倒的に違うからだ。

いま、中国では、1800紙以上の新聞と1万誌余りの雑誌が発行されていて、毎年約50万点の図書が出版されている。さらに、約10億8千万のネットユーザーが毎日膨大な情報を流している。そのなか、日本語に翻訳され、日本のメディアによって取り上げられるものはごくわずかだ。つまり、日本語だけではリアルな中国を掴むのが難しい、日本にいるだけでは中国が見えてこない。本気で中国を知りたければ、メディアによって「厳選」された情報よりも、直接中国人から話を聞いて、中国語で書かれた文章を読んだほうがいい。そして現地に飛び込み、自分の五感でリアルな中国を体験しよう。歴史を知りたければ、6000館余りの博物館がある。宗教に興味があるなら、仏教の寺院だけでも3万3千寺がある。中華料理が好きなら、数万種類の料理があなたを待っている。民俗を知りたければ、雲南省だけでも42の民族の人々が暮らしている。芝居に興味があるなら、360種類以上の伝統演劇を見ることができる。とにかく、「中国」という、とてつもなく多様で複雑な世界に入るためには、語学力がぜひとも必要なのだ。

(2) 中国語にリアルな中国がある

中国には56の民族、130種類もの言語がある。それに、地域ごとに異なる方言が使われている。皆さんが学ぶ中国語はその共通語だ。しかし、すべての中国人が共通語を正確かつ流暢に話せるわけではない。2020年の統計によると、約20%、2.8億の中国人はまだ共通語が話せない。沿海の都市部と内陸の農村部、漢民族と他の民族、学歴の高い人と低い人との間には歴然とした差がある。一方、130種類の言語のうち、使用人口が千人未満の言語は25種類にも上っていて、消えつつある方言も少なくない。つまり、言葉の使用状況は、国民統合、民族間の関係といった政治課題と直結するだけでなく、格差や階層、さらに文化の多様性の問題とも密接に関わっている。だからこそ、政府は貧困撲滅とともに共通語の普及という目標を掲げている。同時に消滅に瀕する言語や方言の保存にも力を入れている。中国語を学ぶとは、中国語の使い方を学ぶだけではない。中国語に関するあらゆる事象を視野に入れると、中国そのものも見えてくるはずだ。

(3) 中国の課題は世界の課題でもある

日本と同じように、中国でも毎年たくさんの流行語が生み出されている。例えば、2019年の流行語に「996」と「隠形貧困人口」というのがある。「996」とは、朝9時から夜9時まで週6日勤務という意味。IT企業の強制残業制度を告発する言葉だ。「隠形貧困人口」は、一見衣食住に不自由がないものの、生活に全く余裕のない若者たちのことを指す。日本にも、近年ブラック企業や隠れ貧困層の問題が浮上している。ほかに、「御宅文化(オタク文化)」や「仏系青年(仏男子)」といった日本語に由来する言葉も中国に定着している。こうした言葉の共通性は社会そのものの共通性を映し出している。中国語を学ぶからといって、関心分野を中国に限定する必要はない。むしろ、中国語を学ぶことによって、日本ないし世界をより深く知ることができる。中国語が分かるようになったら何ができるか、何をしたいか、ぜひ自分の好奇心と探求心に火をつけ、中国語を学び続けるモチベーションとしよう。

2. 中国語を学ぶアドバイス

(1) 発音:通じればよし

中国語の発音は難しい。真似しようとしても、口の中は見えない。どうやってこのような音が出せるか、見当さえつかない時もある。その場合、何を使って(舌の先や表面、唇、歯など)どのように(舌を巻く、歯と唇を摩擦させる、空気を押し出すなど)音を出すかを意識しながら、発音してみるといい。教室は劇場、あなたは俳優。とにかく、口を大げさに動かして、間違いを畏れず大きな声で発音することが上達するコツだ。

すでに書いたように、すべての中国人が共通語を正確かつ流暢に話せるわけではない。方言やなまりのある共通語でコミュニケーションをとっている人も少なくない。逆にいうと、多少の間違いがあっても通じればいい。このような笑い話がある。日本にやってきた外国人留学生がタクシーの運転手さんに「ここで下ろしてください」と言いたかったが、間違えて「ここで殺してください」と言ってしまったという。でも大丈夫。誰も殺しやしない。言葉は文脈において初めて意味を持つ。一番重要なのは、相手を理解しようとする誠意と自分を伝えようとする熱意なのだ。

(2) 漢字:日本語との異同を楽しもう

中国大陸で使われている漢字は、簡略化された「簡体字」だ。簡略化には規則がある。例えば、「貝」が「贝」に簡略化されているので、「貨」は「货」、「則」は「则」、「財」は「财」となる。つまり、規則を覚えれば、たくさんの簡体字が簡単に覚えられる。

簡体字には、日本語の漢字と形や意味が全く同じなものもあれば、違うものもある。「手紙」と書いて「トイレットペーパー」を指すというのはよく知られているものだ。ほかに、「娘」と書いて、「お母さん」という意味、「勉強」と書いて「無理強い」という意味、「太太」も「老婆」も「愛人」もみんな「妻」を指すなど、簡体字と日本語との違いは実に面白い。ぜひ楽しみながら覚えよう。

(3) 文法:日本語の語順を参考にしよう

中国語には、単語と単語をつなぐ「て、に、を、は」がない。単語を並べる順番で意味が決まる。その順番は、案外日本語と似ているところが多い。

(連体修飾語+主語)+(連用修飾語+動詞述語)+補語+(連体修飾語+目的語)

これが中国語の基本的な語順だ。動詞が目的語の前にくるのは、英語と同じである。中国語に特有な「補語」を除いて、ほかはほぼ日本語と同じだ。「連体修飾語」とは何か、どういう品詞の言葉が連体修飾語になれるかなど、すこし難しいかもしれないが、日本語の文法用語を理解すると中国語の文法も分かり易くなる。皆さんは日本語と英語の達人だから、ぜひその知識を使って、真似と暗記だけでなく、考える学習を実践しよう。

(4) 学び方:自分に合った学習ツールをフルに使おう

まず、立命館大学で提供している中国語学習プログラムをフルに使おう。国際関係学部一回生の中国語必修科目は週3回で、すべてネイティブの教員が担当している。すでに中国語の基礎ができている人は、既修者プログラムを選ぶことができる。二回生からは、中国語をより体系的に学ぶ副専攻プログラムを履修することができる。読解、会話、ヒヤリング、作文など様々な授業が用意されている。また、毎週ネイティブ教員やほかの受講生と少人数で交流できるコミュニケーションルームがある。中国語の実力を試したい人は、中国語検定試験や、「漢語水平考試(HSK)」という中国政府公認の検定試験にぜひチャレンジしてほしい。立命館大学では検定費用の補助制度があるだけでなく、登録さえすれば、中検過去問のウェブサイトを自由に使うことができる。普段の中国語の勉強にもぜひ活用してもらいたい。詳しい情報は言語教育センターで(http://www.ritsumei.ac.jp/gengo/)確認してください。

中国語を習得する最も効果的、効率的な方法はやはり留学だ。立命館大学は中国大陸、香港、台湾にある多くの大学と学生交換協定を締結している。現地で学ぶ初修語セミナーのような一か月ほどの短期留学から、一年間に及ぶ交換留学まで、様々なプログラムが用意されている。海外留学プログラムのHP(http://www.ritsumei.ac.jp/studyabroad/)に情報が集約されているので、入学したらすぐチェックしてみよう。

もちろん日本国内にいても、学ぶ機会がたくさんある。中国語関連サイトや動画、NHKの中国語講座、無料の学習アプリ、映画、ドラマ、留学生との交流など、ぜひいろいろ試してみて、自分に合った楽しい、効果的な学習ツールを見つけてください。そして、いま中国で流行っている言葉、話題になっている言葉にもぜひ触れてみてください。

教科書に載っている例文はあくまでも文法を説明するためのもの。例えば、ほとんどの中国語の教科書に「机の上に一冊の本があります」という例文が載っている。この例文はいつ、どこで、どういうシチュエーションで使えるか、なかなか思いつかないだろう。使い方を説明するための例文を暗記するのではなく、シチュエーションを想像して、自分の使える文に変えてから覚えたほうがいい。使うための使える中国語、今まさに使われている中国語を意識的に吸収すると、勉強が一段と楽しくなる。

ぜひ仲間と一緒に、中国語、中国、世界を知る楽しさを思う存分味わってください。

3. 参考図書と役に立つウェブサイト

  • 『日中辞典』第3版(小学館)
  • 『中日辞典』第3版(小学館)
  • 『現代漢語辞典』第7版(商務印書館)(中中辞典)
  • 『Why?にこたえるはじめての中国語の文法書』新訂版(相原茂ほか、同学社)
  • 『やさしくくわしい中国語文法の基礎』改訂新版(守屋宏則、李軼倫、東方書店)
  • 『中国語解体新書 語彙、文法、読解、リスニング強化が1冊でできる!』(丸尾誠、駿河台出版社)
  • 『中国語はじめの一歩』新版(木村英樹、ちくま学芸文庫)
  • 『はじめての中国語』(相原茂、講談社現代新書)
  • 中国語検定協会 http://www.chuken.gr.jp/
  • HSK 漢語水平考試 http://www.hskj.jp/
  • 立命館孔子学院 http://www.ritsumei.ac.jp/confucius/
  • 百度網 https://www.baidu.com/
執筆者:孫軍悦(そんぐんえつ)
執筆日:2021年3月6日
更新日:2023年12月7日