新しい文化を担い、文化を守る

2018.12.17 TOPICS

新しい文化を担い、文化を守る 株式会社NHK エンタープライズ 和田 慎太郎さん(2013年映像学部卒)

 映写機にセットされたフィルムが回り始めると、止まっていた画がまるで命を得たかのようにスクリーンに映し出される。「映像ってすごいな」。一瞬でとりこになった。

 映像との出合いをそう語るのは和田慎太郎さん(2013年映像学部卒)。幼いころから映写技師に憧れ、高校生のとき、市の施設などで1 6ミリフィルムの映画を上映するボランティアに関わった。「市の視聴覚センターには、貴重な映像資料がたくさんありました。でも、保管状態が良くなく、ボロボロになっていて。『映像はこうやって簡単に失われていくんだ』と衝撃を受けました」。どうにかして映像を守れないか――。フィルム映像を復元する方法や映像のアーカイブについて記述された映像学部の冨田美香准教授(当時、現・国立映画アーカイブ主任研究員)の論文を見つけ、冨田先生の下で学びたいと立命館大学映像学部映像学科に進学を決めた。
 和田さんは現在、株式会社NHKエンタープライズでプロデューサーとして、放送番組のWEB 制作や運営、プラネタリウムなどの半球形状のスクリーンに映し出す全天周映像(以下、ドーム映像)の制作に携わる。在学中、学芸員実習で仙台市天文台を訪れ、ドーム映像に興味を持った和田さんは、入社してからも「プラネタリウムは面白い」「ドーム映像は面白い」と事あるごとに上司や同僚に伝えていたという。また、仕事の傍ら、休日にはプラネタリウムや映像の施設に足繁く通い、研究会にも参加してドーム映像の研究を進めていた。
 「ドーム映像は、映画やテレビの映像と全く異なります。特徴は魚眼レンズで撮影したような丸い映像になること、映像にゆがみが生じること。そして、映像が映し出されるスクリーンが大きいことです。主に放送番組の制作を得意としてきた当社には、ドーム映像の制作ノウハウがほとんどありませんでした。これはチャンスと思い、社内の開発事業として提案をしました」。企画が通り、満を持して試写に臨んだ和田さんだったが、結果は大失敗だったという。「当時は制作本部で自然科学番組のディレクターをしていました。撮りためていた自然の映像を使ってドーム映像をつくったのですが、社内試写では、映像酔いで気分は悪くなるし、思った色は出ていないしで、見るに耐えませんでした。『やっぱり、ドーム映像は専門の会社にお願いしたほうが良いのでは』という空気になりましたが、僕は諦めませんでした」。和田さんはこの失敗を糧に、さらに研究を進め、「ドーム映像をつくりたい」と熱意を伝え続けた。

 そんな和田さんの元に舞い込んできたのが、羽田空港国際線旅客ターミナルの「PLANETARIUM Starry Cafe」で上映するドーム映像の制作依頼だった。試行錯誤を重ねて完成した作品名は『海と星空の散歩道』。星空投映とデジタル映像を組み合わせた、社内初のプラネタリウムコンテンツだ。「このタイミングでなければ、期待に沿えるものはつくれなかった」と和田さんは振り返る。「コンピューターグラフィックスではなく、実写映像を使ったことがこだわりです。ドームスクリーンいっぱいに広がる色鮮やかな海中映像と、南の島の満天の星をゆったりと楽しんでもらえるコンテンツを目指しました」。
 この作品では、監督としてディレクションもシナリオも和田さんが担当した。その軸になっているのは、映像学部で身に付けた「プロデューサー・マインド」だ。「『総合大学で映像を学ぶ意味を考えなさい』。一般教養をおろそかにするな、という先生からの教えでしたが、それはとても重要なメッセージだと思います。『映像をつくる』には、必ず主題が必要です。映像はそれを伝える「手段」に過ぎません。自分は何に興味・関心があり、映像で何を描きたいのか。映像と人間に対する理解を深めるための一般教養も学びながら、映像分野の探究ができたことは、大きな意味がありました。知識もマインドも人とのつながりも、立命館大学で得たもの全てが、今の僕の礎になっています」。映画の父といわれるフランスのオーギュスト・リュミエール、ルイ・リュミエール兄弟が映画を発明してから約120 年。「映像は実体がなく幻のようなもの。でも、映像は“ 文化”です。先人が残してきた映像を大切にしながら、新しい映像文化の担い手として邁まい進していきたい。そして、さまざまな分野で活躍している映像学部生と、現場で再会して一緒に仕事がしたい。これが僕の目標です」。

出典元:校友会報「りつめい」No.273(2018年7月号)
撮影協力:東京国際空港ターミナル株式会社、株式会社五藤光学研究所、株式会社NHKエンタープライズ
写真撮影:西槇 太一

PROFILE

和田 慎太郎さん
2013年映像学部卒
株式会社NHK エンタープライズ グローバル事業本部
事業開発センター デジタル・映像イノベーション プロデューサー

2013年、株式会社NHKエンタープライズ入社。情報文化番組、エンターテインメント番組、自然科学番組などの制作に関わる。
2015年から現部署。立命館大学校友会幹事も務める。

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