子どもたちの自尊感情を高める

2019.04.23 TOPICS

子どもたちの自尊感情を高める NPO 法人 D.Live 代表理事 田中洋輔さん(2009年文学部卒)

 「周りが自分のことを認めてくれない。そのように、人のせいにしながら高校、大学と殻に閉じこもっていました」。そう話すのはNPO 法人「D.Live」代表理事の田中洋輔さん。田中さんは高校時代に不登校、大学時代に引きこもりを経験。友人の支えで苦しい時期を乗り越えた田中さんの大きな転機の1つは就職活動だったという。「自分は何をしたいのか。行き着いた答えは『子どもたちに自分と同じようなしんどい思いをさせたくない』ということでした」。その結果、在学中にD.Liveを立ち上げることとなる。

 D.Liveは勉強を教える場所ではない。自尊感情(自己肯定感:良いところも悪いところもかけがえのない自分として受け容れる気持ち)を育む場所だ。「雑談をしたり、ワークショップをしたりしながら、子どもたち全員が居心地の良い場所をつくっています。いわばお酒を出さない子どもたちのスナックといったところです」と田中さんは笑う。両親や先生、周りの大人たちに言えないことを心の風呂敷に包んで、「D.Liveで話すんだ」と子どもが言っていると保護者から聞く。「僕が一番苦しかったのは、自分の気持ちを吐き出せる場所がなかったこと。聞いてくれる人、理解してくれる人が身近にいるだけで子どもたちは自尊感情を高めることができる」。そう話す田中さんは活動を通じて子どもたちの背中を押すというよりも、F1レースでいうピットインのように、学校や日常生活の中で磨り減った子どもたちの心をメンテナンスし、再び走れるようにサポートする役割だという。

 今の子どもたちは自尊感情が低いといわれている。その理由の1つは核家族化だと田中さんは指摘する。家族以外の大人とのかかわりも減ると「周りの大人たちに大切にされている」という感覚が減り、子どもの自尊感情が低下するという。また、大人の自尊感情の低下も見逃せないポイントだ。「原因の1つはSNSの普及です。良い面もありますが、SNSは他人との比較を生みます。子どもだけでなく、私たち大人も大きく影響を受けていて、自尊感情が低くなる結果に。親御さんの自尊感情が低下すると子どもの自尊感情も比例して低下するのです」。保護者向けの講演で田中さんはこう語りかける。「子育ては難しく、教科書通りにいかなくて当たり前。他人と違って当たり前。うまくいかなくて落ち込むのはがんばっている証拠。だから自分を責めないで、自分で自分をそっと抱きしめてください」。

 子どもたちと関わる中で大切にしているのは「チューニング」だという。「鼓動の速さが人によって違うように、望むことは子どもたち一人ひとり異なります。僕たち大人が“ド”の音が良いと思っても、本人が“レ”の音を希望するなら“レ”を出せるようにサポートしていく。つまり大人の基準で子どもをコントロールするのではなく、子どもの思いや考えを引き出し、尊重していくということです」。そんな田中さんの楽しみは、子どもたちが元気になっていく姿を見ることだ。「不登校の子を持つお母さんが、泣きながら現状を話されることがあるのですが、僕はそれを聞きながらわくわくしています。なぜなら、その子には今より良くなる可能性しかないから。元気になっていく姿が僕にはイメージできるのです」。
 「あなたがやらなくて誰がやるの」と保護者に言われ、不登校の子どもたちの支援も始めたというが、不登校の問題にコミットすることでD.Liveのミッションである「子どもがなりたい自分に向かって思いきり取り組める社会をつくる」ことに近づいているのではないかと感じていると田中さん。「ありがたいことに全国からの問い合わせや講演依頼がとても多いです。うれしい反面、僕ら以外にもこの活動に取り組む団体がいないとまずいのではないかと危機感をもっています」と話す。
 「自分の可能性をなめるな」。田中さんが子どもたちによく言う言葉だ。「お子さんは天才です」。保護者によく言う言葉だ。「これらは僕の心からの言葉。僕は親御さんや子どもたち自身よりも、子どもたちの可能性を信じています」。そう断言して、田中さんは今日も子どもたちの横で笑っている。

出典元:校友会報「りつめい」No.275(2019年1月号)
写真撮影:津久井珠美
ロケ地:草津川跡地公園(滋賀県草津市)

PROFILE

田中洋輔さん
2009年文学部卒業
NPO 法人 D.Live 代表理事

プロ野球選手を目指し、強豪の高校へ進むも挫折し不登校に。浪人の末、立命館大学に進学するが引きこもり生活を送る。「自分のようなしんどい思いを子どもたちにさせたくない」と、2009年に「D.Live」を立ち上げ。小・中・高校生の居場所づくり、自尊感情に関する講演等をびわこ・くさつキャンパス(BKC)や全国各地で行う。京都新聞にてコラム『よし笛』を連載中。滋賀県基本構想審議会委員。

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