子どもたちに生き抜く強さを

2019.05.07 TOPICS

子どもたちに生き抜く強さを
株式会社オリオン& Beacon 代表取締役 渡邊久美子さん(1989年経営学部卒)

 株式会社オリオン& Beacon 代表取締役の渡邊久美子さんは東京都世田谷区で「まなびじゅくBeacon」を経営している。同塾の特徴は小学校低学年から高学年、ときには中・高校生まで同じ空間で学習をするという、学年を超えた寺子屋的な教室という点だ。

 私が高校生だったころは、今と違って女性が男性と肩を並べて働くことがまだ一般的ではない時代でした。女性は短期大学を卒業して結婚する、もしくは地元の国立大学を卒業して公務員や学校の教員になるのが良いとされていた中、その考え方に疑問を抱いた私は、数学が得意だったこともあり、女性従事率が低い公認会計士になろうと、会計学も経営学も学べる経営学部に進むことに。地元の大学に入学することが親との約束だったのですが、高校の先生に「九州から出ていろいろな価値観に触れたほうがいい」と勧められ、両親を説得して立命館大学に入学することにしました。入学してからは「税務経理研究会」という税理士・公認会計士を目指すサークルに入会。簿記2 級取得後、大学と並行して専門学校に通い、簿記や会計学の勉強を始めました。しかし数カ月で「数学は好きだけど、この緻密な作業は自分に向かないかも」と思うように。でも、無理を言って遠くの私大に通わせてもらっているのだから学費の元を取れるだけ学ぼうと、齋藤雅通教授の自主ゼミに参加するなど、進む道を模索しながらも勉学に励んでいました。そんな様子を見ていた友人に「何でそんなに勉強するの?」と聞かれ、「学生は勉強が本分じゃないの?」と返したことを覚えています。当時学んだ内容はすっかり忘れてしまいましたが(笑)、やるべきときに逃げずに勉学に取り組んだことは大事だったと思っています。勉強の合間には家庭教師のアルバイトをしていました。当時の手帳を見返したら、生徒の点数や試験の攻略ポイントなどをビッシリ書き込んでいて、今と変わらないことをやっていたことに驚き、笑ってしまいました。

いろいろな子どもたちが集まる場所

 卒業後はリクルートに入社し、短大・大学の広報コンサルティング営業をしていました。総合職として入社したので、やりがいはありましたが、終電まで働いたり、土日も仕事をしたりとハードな日々でした。その後、結婚し夫の仕事の都合で転勤が多くなったため、仕事を辞め、子育てに専念することに。転勤先にある図書館では教育関係の書籍を読み漁り、子どもたちの良さを引き出す教育はなにかと模索しました。長男はシュタイナー教育、次男は山村留学とさまざまな教育を受けさせましたが、2 人の子を育てて感じたことは、子どもは思い通りにならないということです。親が良かれと思っても、子どもに合わないこともある。逆に「なるほど、そうきたか!」と想定外の発想や言動に驚くこともある。だから、自戒も込めつつ「子どもは親の所有物ではない。子どもが伸びたいように成長する手助けをするのが親の役目」と思い、生徒の保護者にもそう伝えるようにしています。
 子育てが落ち着き始めたころ、幼児教育関係の仕事をしていた知人から声が掛かり、少しずつ仕事を再開していきました。次男が中学に入るタイミングで「まなびじゅくBeacon」を開室。当初はワンルームにちゃぶ台を置いて、小学生の子どもたちが宿題を持って集まり、わからないところを私が教えてあげよう、といった気楽な感じで運営していました。そうするうちに生徒のご家族から中学受験を見てほしい知人がいると相談を受け、「できる範囲で良ければ」と受験生を受け入れることに。そのような紹介で生徒が増えていき、現在は小学生から高校生までの約40 人が通っています。Beaconには小学生で高校生レベルの勉強をしている子から、高学年でも九九が覚えられていない子、生活保護を受けながら公立に通う子、私立やインターナショナルスクールに通う子など、学力や経済状況、家庭環境もバラバラな子どもたちが集まっています。まるで社会の縮図のような教室ですが、そんな中だからこそ自分とは違う価値観を理解したり思いやりを学んだりと、人間としての成長があると考え、あえて隔たりを設けず、混ぜこぜにしています。そして、その雑多な中から自分が必要なことを選び取るためのアンテナを立てられる人間に育ってほしいと思っています。

子どもの人生は子どものもの

 集まる生徒は不思議と年によって傾向が変わり、不登校の子が多い年もあれば、高レベルの受験一色の子どもたちが集まってくる年もある。ここ最近は、発達障害(非定型発達特性)に近いグレーゾーンの子どもたちが増えています。一見すると他の子と変わらないけれど、ものすごく努力をしているのに結果がついてこなかったり、会話がちぐはぐだったりで「あれ?もしかして……」と気づくこともあります。そのような場合は親御さんに現状を伝え、話し合う中で受験対策ではなく、大人になっても自活できるよう専門技術を学べる学校を目指すなどに舵を切ることもあります。得意分野ではものすごく力を発揮できるものの、苦手分野はお手上げという「でこぼこ」が大きい生徒に対しての指導法は奥が深く、難しい。これまでの私の当たり前が通用せず、もがきながらも目から鱗が落ちることばかりで目下勉強中です。
 親御さんと接していて悔しい思いをすることもあります。それは、自分の見栄や世間体で子どもの進路や将来を決めてしまわれるときです。親の価値観や親にとっての‘ 普通’という枠に当てはめることが子どもにとって幸せとは限らないのに……。ですから、ある程度の年齢で理解できる生徒には「経済状況など自分でどうにもできないことは配慮しないといけないけれど、それ以外では、あなたの人生は親のものではなく、あなた自身のもの。だから、あとで後悔しないように自分の意見は主張したほうがいい」と伝えています。それと同時に「自分で選ぶということは、自分で責任をとるということ。『もしかして違うかも、失敗するかも』と心配になるかもしれないけれど、いつでも、いくらでも修正はできる。だから自分で考え、自分で決断し、実行できる力をつけなさい」と話しています。

道を照らすしるべとして

 所属していた服部泰彦教授ゼミのOB・OG会が毎年京都で開催されています。仕事の繁忙期と重なって、私はなかなか参加できなかったのですが、2 年前にやっと顔を出せ、お世話になった先生や旧友たちと楽しいひとときを過ごしました。私の席は長老席と呼ばれる先生と同じテーブルだったり、話していた後輩たちは息子と同じ歳だったりと自分の年齢を改めて自覚しましたが(笑)。また、5 年前には大学時代に仲が良かった友人たちと「京都思い出ツアー」を開催。去年2 回目も行いました。きっかけは家族ぐるみで仲良くしていた知人が急死したこと。元気なときに動かないと二度と会えないかも……、と、25 年ぶりに京都で落ち合いました。衣笠キャンパスを訪れ、当時なじみだったお好み焼き屋でご飯を食べて、それぞれの下宿先を巡って……。一気に学生時代へとタイムトリップし、気持ちが若返ったように思います。
 私が学生時代に教わった中で記憶に残っているのは「活字は疑ってかかりなさい」という齋藤先生のお言葉です。「いろいろな人がそれぞれの立場で発言をしているから、マスメディアが発信していることも、必ずしも正しいとは限らない。周りが言っていることを鵜呑みにせず、自分で正しいと思うことを都度ジャッジしながら情報に向き合いなさい」という教えは、今でも私の軸となっています。
 生徒から「なぜ勉強しないといけないの?」と問われることがあります。私は「したくなかったらしなくていい。けれど、知らないと損することもあるし、学んでいく中でふと気づくこともあるんだよ」と話しています。私は成績を上げるためだけに勉強を教えているのではありません。人間として生き抜く強さを、学びを通して教えたいと思っています。そのために私ができることは何か、どんな言葉を掛け、どう導き、寄り添っていけばいいか。そのことを第一に考え、指導をしています。
 塾名の「Beacon(灯台・目印となる場所)」のように、子どもたちが人生に迷ったときには、道を照らすしるべとなるように、必要とされる限りここで光を発し続けたいと思います。

出典元:校友会報「りつめい」No.275(2019年1月号)
写真撮影:清水純一

PROFILE

渡邊久美子さん
1989年経営卒業
株式会社オリオン& Beacon 代表取締役

株式会社リクルートにて短大・大学の教育広報コンサルティングの営業を担当。チャイルド・ファミリーコンサルタント事務局にて企業内育児教育やワーキングマザー支援プログラムの企画、キッザニア準備室運営などにかかわる。株式会社オリオン& Beaconを設立し、2010 年、東京都世田谷区に「まなびじゅくBeacon」を開室。小・中学生向けの学習教室、中学・高校受験対策、個別指導などを行っている。

関連情報

NEXT

2019.04.30 TOPICS

当事者意識で地域を変える ケイカクラボ株式会社 代表取締役 村上勝俊さん(2005年応用人間科学研究科修了)

ページトップへ