圧力がシアノバクテリアの体内時計を早めることを発見

2019.09.04 NEWS

圧力がシアノバクテリアの体内時計を早めることを発見~酵素の体積収縮が体内時計を制御していることを解明~

 薬学部の北原亮教授と生命科学部の寺内一姫教授らの研究グループは、シアノバクテリアの「体内時計」が200気圧(水深2,000 m相当)では1気圧に比べ1.5倍速く進むことを発見し、たった1つの酵素活性の圧力による促進が原因であることを解明しました。

 私たちの体は、約24時間周期の「体内時計」を持っており、遺伝子発現や免疫系、自律神経系など多くの生理機能がこの24時間の振動、すなわち概日リズムで制御されています。バクテリアから哺乳類の体内時計では、時計機能を担うタンパク質が異なるにも関わらず、その周期長、つまり24時間は「温度」に左右されないという共通した性質(温度補償性)があります。しかし、深海や地中など様々な圧力環境で生物が発見されているにもかかわらず、圧力に対する体内時計の研究は皆無でした。

 今回の研究では、体内時計の性質が備わった最も単純な生物といわれるシアノバクテリアを用いて、体内時計の圧力応答を調べました。シアノバクテリアの体内時計は、KaiA、KaiB、KaiCという3つのタンパク質とATP(アデノシン三リン酸)から構成されます。KaiCがKaiAおよびKaiBと相互作用し、KaiC自身がリン酸化と脱リン酸化を繰り返す約24時間のリズムを作り出します。本研究において、1気圧では22時間になるリン酸化リズムの周期長が、200気圧では14時間まで短縮することを発見しました。さらに、KaiCがもつATP加水分解活性(酵素活性)の圧力による促進が、周期長の短縮と相関があることを示しました。この圧力による酵素活性の促進は、反応の遷移状態の体積が反応前に比べ小さくなること、つまりKaiCのATP加水分解には「収縮」が必要であることを意味します。この体積収縮こそが、ATPや水、触媒残基の配置に影響し、より効率的な反応をもたらしたと考えられます。

 周期長を決定するたった1つの酵素活性の圧力依存性が、生物の体内時計を大きく狂わせる可能性があります。ヒトの体内時計でも周期長に強く関係する酵素反応がわかっています。圧力軸の実験が、概日リズムの発生原理や温度補償性のメカニズムの解明を加速させる可能性があります。

※本研究成果は、2019年8月27日午前10時(英国夏時間)に英国科学誌Scientific Reports(オンライン版)に掲載されました。

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