生命科学部 前田大光教授らの研究論文が「米国化学会誌」に掲載

 生命科学部応用化学科の前田大光教授と羽毛田洋平講師、宮末実佳さん(生命科学研究科博士前期課程2019年度修了)、小林洋一准教授は、国立研究開発法人 理化学研究所、筑波大学、高輝度光科学研究センター、関西学院大学の研究グループと共同で、電子豊富な湾曲分子が環状に集合化したリングが電子不足な球状分子(フラーレンC60(※1))を結晶状態で会合し、リングからC60への光誘起高速電子移動を発現することを明らかにしました。

 今回、前田教授のグループは、電子豊富なピロール環(※2)からなる湾曲分子の合成に成功し(図1)、分子間の相互作用を巧みに利用した超分子(※3)リングとその内部に球状分子を取り込んだ会合体の構造とその電子機能の解明に成功しました。
 今回合成した湾曲分子は溶液中では湾曲の反転挙動を示しますが、結晶中では固定化され、水素結合によって6分子(12個のピロール環)から構成されるリング構造を形成します(図2上)。リング内部の直径は約13 Å(1 Åは100億分の1メートル)であることから、電子不足な球状分子であるフラーレンC60(直径7.1 Å)を取り込むことを大型放射光施設SPring-8(※4)における単結晶X線構造解析(※5)から明らかにしました。リングを構成するすべてのピロール環はC60に対して約3.2 Åの距離で平行に接近して配置し、中心にC60が配置した土星型の会合体を形成しました。また、結晶中においてこの会合体は一軸方向に規則配列した構造を示しました(図2下)。前田教授らは、分子間(リングを構成する湾曲分子の間およびリングとC60の間)にはたらく相互作用を理論計算によって検証しました。さらに、単結晶への光照射によって、リング(電子豊富)からC60(電子不足)への高速電子移動(※6)を過渡吸収分光(※7)によって解明しました。

 複数の構成ユニットの分子間相互作用を制御した集合体の創製とその機能の理解は、電子・光機能性材料の創製において非常に重要です。今回、一軸方向へ超分子リングの会合体が配列した結晶における光誘起高速電子移動を観測したことから、導電性材料などの有機エレクトロニクス材料の開発につながることが期待されます。


図1. ピロール環を構成ユニットとする湾曲分子


図2. 湾曲分子とC60からなる超分子リングの形成およびその単結晶構造

※本研究成果は、2020年8月16日に米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)(オンライン版)に掲載されました。

用語説明

(※1)C60:炭素原子60個からなるサッカーボール型分子。
(※2)ピロール:4つの炭素と1つの窒素から形成される5員環分子。生命色素ポルフィリンの構成ユニット。
(※3)超分子:複数の分子が弱い分子間相互作用によって形成される秩序的な集合体。
(※4)SPring-8:放射光を使用し物質の原子・分子レベルでの形や機能を調べることができる研究施設。
(※5)単結晶X線構造解析:X線の回折現象を利用した単結晶の構造解析の手法。
(※6)電子移動:電子供与体から電子受容体へ電子が移動する反応。
(※7)過渡吸収分光:物質が光を吸収することによって生じる変化を、分光学的に追跡する時間分解分光の一種。

論文情報

  • 発表雑誌:米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)
  • 論文名: Self-Associating Curved π-Electronic Systems with Electron-Donating and Hydrogen-Bonding Properties
  • 著者:Haketa, Y.; Miyasue, M.; Kobayashi, Y.; Sato, R.; Shigeta, Y.; Yasuda, N.; Tamai, N.; Maeda, H.
  • 掲載URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.0c07751

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