「今、君たちと話したい」亀田誠治氏の特別講義を開催

1月28日(金)、本学の客員教授である反畑誠一先生(音楽評論家)の企画による、亀田誠治氏の特別講義「今、君たちと話したい」がオンラインで開催されました。
 亀田氏は、椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、Creepy Nuts、関ジャニ∞など多くのアーティストをプロデュースした音楽プロデューサーで、東京事変のベーシストとしても活躍し、2007・2015年には日本レコード大賞で「編曲賞」、2021年には映画「糸」で日本アカデミー賞「優秀音楽賞」を受賞しています。
 今回の特別講義には約180名の学生が参加し、テーマごとに亀田氏と学生が対話する形式で実施されました。「コロナ禍で心のディスタンスが生まれている今だからこそ、今一度みんなと話すことで、それぞれの気持ちを聞きたい」と亀田氏の言葉のもと、講義が始まりました。

亀田誠治氏
亀田誠治氏
受講する学生たち
受講する学生たち

亀田氏からの質問-新しい音楽や情報は主にどこで入手していますか?

学生:主にYouTubeで、次いでInstagramやSpotifyで入手しています。これまではCDショップや本屋に足を運んでいましたが、今ではその多くがデジタルに移行しました。お金を払う対価としてCDや音楽を入手するのではなく、サブスクリプションで定額制になったことで、一つの音楽を聴くことに対して敬意を持てていないのではないか?と思うようにもなりました。

亀田氏:そこはぜひ、サブスクリプションで多様な音楽に触れてほしいと思っています。たくさんの音楽を知り、色々なアーティストに触れて好きになり、そこからフェスに行ったり音楽を深掘りしたりして、音楽業界に還元してほしい。レコードやCD、インターネット、さまざまな媒体で聴く楽しみを経験してみてください。どのような形でもみんなが還元してくれるだけで、音楽を制作することに携わっている人たちが救われ、新しい才能の発見につながると思っています。

学生:私はラジオで新しいアーティストを開拓しています。リクエストとしてラジオ局に寄せられる曲には一人ひとり、その曲に対するエピソードが込められていて、それを聴くのが好きです。

亀田氏:ラジオには音楽のバックグラウンドがみえる良さがあり、僕も大好きです。マルチタスクな世代の人たちが、今唯一空いている五感は耳。現代の私たちは、その曲のストーリーやアーティストの誕生秘話など、プレイボタンを押すだけでは入ってこなかった情報を手に入れたくなってきていると思います。コロナ禍の影響も大きく、人の言葉と音楽の触れ合いを手軽に聴ける媒体に注目が集まっており、私たちの音楽に対する欲望が少しずつ変化しているようにも思います。

亀田氏からの質問-ソーシャルメディアをどのように活用していますか?

学生:金銭や利害が絡まないリアルな声や、口コミを聴くときに活用しています。しかし匿名のため、責任のない発言が横行しているように思います。ソーシャルメディアで自己表現するなかでも、誰かを傷付けないように心がけています。

亀田氏:自由に意見が言い合えることは良いこと。でも、使う言葉に意図的な悪意が伴っていることもあり、それは問題だと思っています。名もなき声を聴くことは大事だけど、匿名を利用してフェイクニュースを流すなど、感情のままに人に言葉を投げつけるのは良いこととは思いません。使う言葉、それを受け取る相手、そのやり取りを読んだ人が何を感じるのか?そこまでを配慮したうえで、議論を行うことが大切だと思います。今後、みんなの世代が開拓していってくれると願っています。

学生:友人とのLINEのやり取りなども含め、ソーシャルメディアに依存気味。ちょっと使いすぎかなって自分でも思います。

亀田氏:SNSに対する依存は医学・心理学的にも議論されていますね。ソーシャルメディアによってアイデンティティが表現される光の部分もありますが、エゴサーチをしていないと心配になってしまうような、影の部分もあります。常に情報を得ることによって、今の時代を生きるための筋肉を備えていることも確かです。加減が大切ですよね。私もしんどいときは自分から距離をとるようにしています。

亀田氏からの質問-エンターテインメントの役割とは?コロナ禍を経てどう変化していくか?

学生:クオリティ・オブ・ライフ向上のためにエンターテインメントは必須だと思います。私はお笑いが好きですが、コロナ禍でオンライン配信が活発化し、会場のチケット数以上に観たい人に届けられるようになりました。オンライン配信によって新たな窓口が広がったように思います。

亀田氏:オンライン配信で多くの人が参加できるのは、ステージにいるアーティストにとっても嬉しいことです。今まで届けられなかった地域に、場所と時間を気にせず、届けられる利点はある一方で、音楽業界では配信する経費が大きく、右肩下がりの状況が続いています。オンラインライブは1回目より2回目以降のチケットが売れなくなってしまう傾向にあるのです。コンサートやライブの運営には大勢の人が携わっていて、その人たちにもお給料を渡すためには、やっぱり一定数のチケット代が必要です。今後はさらに、音楽業界全体が感染対策に取り組みつつ、可能性を模索しながら、リアルとオンラインの両方でお互いを高めていくことが課題ですね。

学生からの質問

亀田氏と学生との対話の後には、学生から亀田氏へ多くの質問が投げかけられました。

学生:藤井風さんやadoさんなどインターネットを通じて活躍するアーティストが多くなりましたが、インターネットが主流になる前の世代のアーティストとの違いは?

亀田氏:彼らが一番進化しているのは、世の中で自分たちがどう思われているのか、自らキャッチしていく能力があること。自分たちで世の中の変化をイメージしながら進んでいるのが大きな違いだと思います。素晴らしい才能と感性を持ちつつ、SNSなどを使って外とのコミュニケーションを図れる能力があります。また、今ではコンピューター上で歌が編集できるようになり、ある程度の音程などは編集が効くようになっています。彼らは綺麗に整えられた音楽を吸収して成長してきたため、初めから音程やリズムの精度が高く、本当に歌が上手です。

学生:最近Jazzを始めましたが、練習や本番で上手く演奏できなくて落ち込みます。亀田さんくらいになると失敗しても落ち込まないのでしょうか。満足のいく演奏ができないときはどうやって気持ちを切り替えていますか?

亀田氏:僕も演奏で失敗したらめちゃくちゃ落ち込みますよ。でもプロなので、失敗しないように準備はします。とにかく楽器演奏の際は、本番と同じ形で練習を繰り返し、直前に自分の躓くところを探し出し、練習を繰り返して成功につなげています。プロもみんな落ち込みますが、自分で環境を整え、きちんと準備をして、そして経験があるため大失敗をしていないだけ。失敗は次の自分へのチャンスです。楽しく次に向かうことが大切だと思います。

学生:春からのエンターテインメント企業に入社予定です。しかし配属先が興味の薄い部署に決まってしまい、意欲が少し低下してしまっています。

亀田氏:あなたがエンターテインメント業界そのもので大きな夢を持っているのなら、希望とは離れた部署へ行くことは大正解です。そこで出会った仲間が生涯のパートナーになることだってある。一度トライしてみてもいいのではないでしょうか?想像のつかないことが起こるかもしれない。僕が仕事を始めた頃は、音楽に携われるならどんな仕事でも良かったんです。どんな仕事でも、全力投球していたら、色んな人から声をかけてもらい、その都度変化が起きて、今の自分があります。必ずしも思い描いていた場所でなくても、最大限、面白味を求めて働けば、自然と仲間や理解者が現れ、必ず良い結果に結びつきます。意欲を持っていれば、必ず周りが見てくれているのです。

 講義終了時間を迎えた後も、亀田氏と学生が引き続き対話を楽しむ様子がみられました。最後に、亀田氏は名残惜しむように講義を終了し、受講者から盛大な拍手が送られました。

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