曲げると光起電力が変化!「軽くて柔らかい光発電デバイス」の開発に成功

立命館大学大学院理工学研究科機械システム専攻の藤村潤さん(博士課程前期課程2021年度修了生)、足立悠輔さん(博士課程後期課程3回生)、髙橋輝樹さん(博士課程前期課程2回生)、および小林大造教授の研究グループは、ピエゾフォトトロニクス効果(圧電-半導体-光励起の相乗効果)を用いて「曲げると起電力が変化する軽くて柔らかい光発電デバイス」の開発に成功しました。本研究成果は、2022年5月18日、Elsevier社が発行する国際学術誌「Nano Energy」に掲載されました。

【本件のポイント】

  • 低コスト・資源が豊富な結晶セレン薄膜によるフレキシブルな光発電デバイス
  • ひずみ印加時の圧電薄膜の分極を利用して光生成キャリアの再結合損失を抑制
  • ひずみに応答して開放電圧が顕著に増加(ひずみ-0.4 %~+0.4 %、開放電圧0.59 V~0.75 V)
  • 室内光によるエネルギーハーベスティングの高効率化や光起電力を利用したひずみ計測素子への応用に期待

研究の背景

結晶セレンは、可視光波長の光吸収が極めて優れた材料であり、室内照明光を用いた高効率な光発電デバイス(理論限界変換効率は約60%)への応用が期待されています。これまで、P型半導体である結晶セレンに対して酸化亜鉛系、酸化チタン系および硫化カドミウム系などのN型半導体を接合したヘテロ接合(異種材料のPN接合)による光発電デバイスが報告されてきました。しかし、P型半導体とN型半導体が異なることによるエネルギーバンドの整合性改善などの課題があり、実際の変換効率は理論限界の5分の1程度と低く留まっています。このため、ヘテロ接合界面制御のための技術開発が求められています。

研究内容について

研究グループでは、前述のPN接合のエネルギーバンド不整合(バンドオフセット)の改善のアプローチとして、N型酸化亜鉛系圧電薄膜へのひずみ印加による分極の利用に着目しました。従来はエネルギーバンド制御の手法として、不純物の添加や混晶化が用いられていますが、組成比や結晶構造の変化により、材料の電子物性が変化し、性能が低下する場合があります。本研究では、酸化亜鉛系圧電半導体にひずみを印加して圧電分極電荷を接合界面に発生させ、P型結晶セレンに対するバンドオフセットを変化させる手法を適用しました。そして、PETフィルム上に酸化亜鉛系窓層/結晶セレン光吸収層による薄膜光発電デバイスを形成し、基板を曲げることで光起電力を顕著に変化させることに成功しました。

曲げることで応答する光発電デバイス
図1. 曲げることで応答する光発電デバイス

研究成果と社会的なインパクトについて

従来の組成制御とは異なる新たなアプローチで、エネルギーバンド整合を改善することで、結晶セレン薄膜光発電デバイスの光電変換効率の改善が期待されます。また、将来的な用途として、様々なセンサで得られた幅広い情報をインターネットで統合するIoT(Internet of Things)のために必要となる、小型軽量な室内照明光による発電デバイスや、光起電力がひずみに応答するメカニズムを利用した新規のひずみセンサへの応用などに期待されます。

デバイスの動作原理
図2. デバイスの動作原理

論文情報

  • 論文名 : Impact of piezo-phototronic effect on ZnMgO/Se heterojunction photovoltaic devices
  • 著者 : Jun Fujimura, Yusuke Adachi, Teruki Takahashi and Taizo Kobayashi
  • 所属 : Department of Mechanical Engineering, College of Science and Engineering,
  • Ritsumeikan University
  • 発表雑誌 : Nano Energy, Vol. 99, 107385(2022)(https://doi.org/10.1016/j.nanoen.2022.107385)
  • 掲載日 : 2022年5月18日

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