東北食べるツアー 生産者と語ろう in 仙台 開催

 7月15日・16日、宮城県仙台市で、「東北食べるツアー 生産者と語ろう in 仙台」を開催しました。
 学生15人と仙台市立 仙台青陵中等教育学校の生徒3人が、仙台市で農業を営む農家や食流通企業を訪れたほか、宮城名物「笹かまぼこ」を製造・販売する株式会社ささ圭と永野聡・立命館大学産業社会学部准教授によるワークショップ、そして立命館大学が冠協賛した「立命館大学デー」に参加しました。学生たちはリアルな東北の姿、復興の歩み、人々の思いに触れました。

 東日本大震災から11年。本取り組みは、東北の生産者や食流通企業、製造業者とのリアルな対話を通して、東北の「いま」を知って・学んで・味わうものです。ここでは、2日間にわたり取り組んできた企画をレポートします。

「生きていくうえで必要なものって全然多くない」

「人のことなどどうだっていい」「人間の本質を見た」。スポーツトレーナーから農家に転身して6年目の佐藤将大さんは、震災直後のコンビニに行くと、これまで見たことのない人々の状況を目にしたという。佐藤さんも岩手県内で被災するも、実家が農家だったこともあり、生きるために必要な山水、火(薪)、米が揃っており、生活には困らなかった。電気は復旧までに時間を要したので、夜には蝋燭の火に家族が集まった。「生きていくうえで必要なものって全然多くない」。佐藤さんは、震災を通して、家族(大事な人)、場所、食べ物、それを自給できることが強い生き方だと感じ、そこから農業に対する意識が芽生えたという。

周りの農家は震災当時、どのような思いだったのか。佐藤さんは当時を振り返り、ショックを受けた言葉を教えてくれた。「とある農家さんが、ガソリンも使えない、電気も使えないから、全然仕事にならないと言っていた。言っていることはわかるけど、農家がガソリンないから仕事にならないっていう理由はおかしいと思ったし、『依存する』ことが怖いと感じました」

被災した体験を話す佐藤さん
話を聞く学生

震災から11年が経つことについては「特に震災という意識は持っていませんが、この11年は自給力をとにかくつけようと努力しました。自給力=人間力だと思うんですよね」と佐藤さん。

「仙台で始めた農園をすべて耕すのに3年ほどかかりました。安定するまでの期間は、早朝の新聞配達、その後、畑仕事をして、日中はレストランや花屋をしたりとやれることは全部やりました。今は農業一本でやっていますが、就農して1、2年はすごくきつかったです」

現在は、化学肥料、動物堆肥、農薬不使用で野菜をつくるエグベジ事業に取り組んでいる。今後のキャリアビジョンを次のように語ってくれた。

「全国の主要都市にエグベジを作っていきたいと考えています。全国各地にはさまざまな地元食材・野菜があります。自分がさまざまな土地にいって、事業を広げることで、全国でエグベジに触れてもらえる。そんな未来を描いています」

集合写真

被災翌日に9割の店で営業再開 ウジエスーパーが真っ先に行動できた理由

「食を通して社会貢献」を進める宮城県内で展開するスーパーマーケット「ウジエスーパー」。地域に無くてはならない存在として、東日本大震災発生の翌日にすぐさま店舗営業を再開し、避難住民に対して食料や日用品の供給を続けてきた。株式会社ウジエスーパー人事兼広報室の桜田優子さんは、震災発生時の様子やその後の対応について、学生たちに当時の報道映像などを紹介しながら次のように話をしてくれた。

話をする桜田さん
メモを取る学生

「ウジエスーパーがすぐに営業再開に至った背景には、当社が2010年に定めた『ウジエスーパーの存在意義』という理念が社員に十分に浸透していたためだと考えています」

本当に地元の方々に必要とされる時に営業するということを第一に考えたというウジエスーパー。ウジエスーパーが地域のために使命を果たしたいという思いは、地元住民のみなさんにも受け取ってもらえていたのではという。

「震災前に戻ろうと思っても戻ることはできません。ですが、今のコロナ禍でも私たちは『地域になくてはならない存在』だということを深く実感し、日々お客様と向き合っています。この11年で、何かあっても前向きにやる集団だという自信がつきました」

集合写真

震災復興、迫られた住民の決断 閖上地区や株式会社ささ圭の事例

「お客様との信頼関係、地元の方たちの応援。ささ圭の笹かまぼこをもう一度食べたい。お客様からのさまざまな声が復活する要因になりました」。そう語るのは、株式会社ささ圭専務取締役の佐々木靖子さん。
1日目の最後に行った特別ワークショップでは、永野聡・産業社会学部准教授がファシリテーターとなり、学生たちが株式会社ささ圭代表取締役の佐々木圭亮さんと佐々木靖子さんへ事前に考えてきた質問を伺い、最後にこれまで食べるツアーを通して学んできたことを踏まえ、自分たちのネクストアクションを発表した。

左から佐々木靖子さん、佐々木圭亮さん
左から佐々木靖子さん、佐々木圭亮さん
メモを取る学生

学生からは、被災後に売り上げが一定までに回復するまでの道のりや住民と行政が進めてきた街の復興に向けた取り組みのこと、振り返ったときにやっておけばよかったことなど、株式会社ささ圭が経験されてきた内容を中心に質問が寄せられた。
一通り質問を終え、ネクストアクションを考える学生たち。「震災について考え続けることが大事」「リアルな声を生かした政策を実現する公務員になりたい」など、多様なアクションプランを発表した。

集合写真

「受け継ぎたいものがここにある」トータスファームの相原美穂さん

津波被害にあった宮城県仙台市の新浜地区で就農して7年目を迎えるトータスファームの相原美穂さん。トウモロコシやレタス、ブロッコリーなどを主に育て、“都市農業”のメリットをいかし、鮮度で勝負。販路も自ら開拓している。

江戸時代から十代以上続く農家に生まれた相原さん。北海道の農業系大学を卒業後、仙台の卸売市場へ就職し、仙台で唯一の女性の競り人として活躍。主にイチゴの競りを担当していた際に東日本大震災が発生した。

「震災を経験したことで、私は伝える力がなかったことを実感しました。そこで、卸売市場を退職し、東京で2年間、企画力や発信力を学びました」

集合写真

2年間の学びを経て地元に戻り、2015年に就農した相原さん。現在は、国の基盤整備で農業をやりやすいように整備された農地を活用している。

「震災を経験したことで農業のイメージが変わりました。今は、地域のみなさんやいろいろな人と出会って、関わる人々の人生を豊かにしたいと考えています。仙台は都市部の中に農地が残っている珍しい場所です。津波被害も受けましたが、農業というものが、仙台の人たちの暮らしを豊かにしているのは間違いありません。この風景を次世代に受け継ぎながら、新しいことにもチャレンジしたいですね」

最後に相原さんは学生たちに次のように語りかけた。

「日本は、どこでも災害が起こる環境。だからこそ、私たちが経験したことを全国の農家さんへしっかり伝えることが大事だと考えています。責任ですね。11年前、たくさんの方々からすごく支援を受けて復興してきた使命だと思います」
「復興で大事だと感じたことは、人の意見を素直に聞きながら、形にしていくことですね。11年たって、人のつながりの大切さを実感しながら活動しています」

集合写真

「がんばろう東北」ツアー最後は、東北楽天ゴールデンイーグルスのホームゲーム観戦

東北食べるツアーの最後に訪れたのは、「がんばろう東北」のスローガンを掲げ各種支援活動に取り組んでいる東北楽天ゴールデンイーグルスのボールパーク。7月16日の試合は、「立命館大学デー」として立命館大学が冠協賛しており、学生たちは復興の象徴として地元に愛される球団の姿を現地で体感。ツアーを通して、さまざまな復興の形を目にすることとなった。

球場の様子
辰己選手のタオルを持つ学生たち

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