2023.05.16 NEWS

ナノ結晶表面に配位した有機分子が光で可逆的に脱離する現象を解明‐触媒活性・導電性・光機能を光で自在に変調できる新ナノ材料創成に資する新たな発見‐

 立命館大学生命科学部の小林洋一教授と同大学大学院生命科学研究科博士課程後期課程の吉岡大祐さんらの研究チームは、 京都大学理学部のI-Ya Chang研究員、金 賢得助教、分子科学研究所の米田勇祐助教、倉持 光准教授と共同で、半導体ナノ結晶※1表面に機能性有機分子を配位した複合ナノ材料において、可視光線を照射することで有機分子が脱離し、その後数秒以上かけて再度表面に配位する現象を発見、解明しました。本研究成果は、2023年5月9日(米国時間)に米国化学会誌「ACS Nano」に掲載されました。


【本件のポイント】

  • 半導体ナノ結晶表面に配位した機能性有機分子が光で脱離する現象を初めて観測に成功
  • 有機配位子の光脱離反応はほぼ可逆的に進行
  • ナノ結晶表面の有機分子はナノ粒子の分散性、触媒活性、電気伝導性、発光特性などを決めることから、光でそれらの性質を自在に制御できる新材料開発が今後期待される

研究成果の概要

 半導体ナノ結晶と機能性有機分子を化学結合で連結した複合ナノ材料は、近年、太陽電池やディスプレイ、光触媒など、幅広い光機能材料分野で活用されています。一方で、ナノ結晶と機能性有機分子を結ぶ化学結合は、 光励起状態※2においても安定であるとこれまで暗に仮定され、その詳細は全く解明されていませんでした。本研究では、半導体ナノ結晶の表面に機能性有機分子を配位したモデル化合物において、可視光線を照射することで機能性有機分子が可逆的に脱離することを初めて明らかにしました。表面の有機配位子はナノ結晶の分散性、触媒活性、電気伝導性、光機能を決める重要な部位であることから、本研究で得られた知見はナノ結晶のそれらの機能を光で自在に制御できる新材料の開発に応用されることが期待されます。


図1.ナノ結晶表面の有機分子が光照射によって脱離することを表した概念図

研究の背景

 半導体ナノ結晶はその特徴的な光電子特性により、近年、太陽電池やディスプレイ、光触媒など、さまざまな光機能材料への応用研究が盛んに行われています。ナノ結晶表面の有機配位子は、ナノ結晶の分散性、触媒活性、電気伝導性、発光特性を決める重要な因子であり、これまでさまざまな有機配位子とナノ結晶からなる複合ナノ材料が報告されてきました。その一方、ナノ結晶の研究は開発以来40年以上続いているにもかかわらず、これまでの研究では、光励起過程において有機配位子が安定にナノ結晶に配位していると暗黙に仮定され、その詳細は全くわかっていませんでした。

研究の内容

 今回研究者らは、機能性有機分子であるペリレンビスイミド(PBI)を配位子とし、硫化亜鉛(ZnS)ナノ結晶に配位させた複合ナノ材料(PBI-ZnS)をモデル物質として合成し、その光励起状態の詳細をさまざまなレーザー分光計測や量子化学計算によって解析しました。その結果、可視光線でPBIを励起すると超高速電子移動が起き、PBIがナノ結晶表面から脱離することを初めて明らかにしました(図2)。さらに、脱離したPBIとZnSナノ結晶は数秒以上のきわめて長寿命の電荷分離状態を形成し、その後再度ナノ結晶に配位することも明らかにしました。


図2.(a) PBIの分子構造; (b) PBI-ZnSにおける配位子可逆的な光脱離過程の反応機構

社会的な意義

 本研究は、有機無機複合ナノ材料研究においてこれまで見過ごされてきた根幹的な現象を見出したものであり、ナノ材料化学や光化学分野において重要な知見であると言えます。それだけでなく、ナノ結晶表面の有機配位子はナノ結晶の分散性、触媒活性、電気伝導性、発光特性などのさまざまな機能を決めることから、光で分散性、触媒活性、発光特性などを制御できる光触媒(図3)や、ナノ結晶フィルムの導電性回路の微細パターニング(図4)など、新しい光機能材料の開発に応用されることが期待されます。


図3.分散性・触媒活性・光機能を光で制御できる光触媒の概念図


図4.可視光による導電性回路の微細パターニングの概念図

論文情報

  • 論文名: Quasi-Reversible Photoinduced Displacement of Aromatic Ligands from Semiconductor Nanocrystals
  • 著者: 吉岡大祐さん(立命館大学生命科学部博士課程後期課程2回生)、米田勇祐 助教(分子科学研究所)、I-Ya Chang 研究員(京都大学理学部)、倉持 光 教授(分子科学研究所)、金 賢得 助教(京都大学理学部)、小林洋一 教授(立命館大学生命科学部・JSTさきがけ)
  • 発表雑誌: ACS Nano
  • 掲載日: 2023年5月9日(米国時間)
  • DOI: 10.1021/acsnano.2c12578
  • 掲載URL: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsnano.2c12578

用語説明

1.※1:有機分子が表面に配位することによって安定化されたナノメートルオーダーの半導体微粒子

2.※2:光照射によって生成する物質(正確には物質内の電子)のより高いエネルギー状態

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