物理駆け込み寺1

数学・物理に関する何でもよろず相談所

年間のべ2000人以上が利用
物理駆け込み寺2
似通った質問ごとにグループとなり議論を重ね答えを導く。定期試験前などは相談者で溢れる
回生、分野、学科を超えた学生同士が学ぶ
理工系女子も学生講師として活躍

 立命館大学には、正課(授業)・課外(授業外)に関わらず学生同士の学び合いの中から社会で必要となる力を自然に養うことができる教育スタイル「ピア・ラーニング」「ピア・サポート」という伝統的な取り組みがあります。例えば、低回生の基礎演習など小集団授業に上回生のオリターやエンター、ES(エデュケーショナル・サポーター)、TA(ティーチング・アシスタント)を配置し、指導や援助にあたります。大学生活や学習に不安を持つ1回生にとっては学びの礎を築くこの重要な時期に、先輩からの貴重なアドバイスをもらえるなどのメリットがあり、また、指導・援助する側の上回生にとっても、学びの振り返りや実践力強化、積極的に他者に関わる姿勢を育む(コミュニケーション能力を高める)重要な機会ともなっています。
 ここでは、年間のべ2000人以上の学生が利・活用する理工学部のピア・サポートのひとつで、理工系学部(理工、情報理工、生命、薬)の学生を対象に、教員および学生講師が物理・数学に関するさまざまな質問・悩みに対応する『物理駆け込み寺』について紹介します。

学生同士が学び合い、高め合う仕組み

ポイントは授業との連携
 俵口(左)・森本先生も議論に参加
問題や分野によっては教員が指導(濱地先生)

 理工学部には9の学科がありますが、どの学科に所属しても数学と物理の基礎学力は必ず必要となります。物理駆け込み寺は、現在も担当教員として学生主体の活動を支えている俵口忠功講師、濱地賢太郎講師ら有志により、理工学部生のよろず相談所として2006年にスタートしました。その翌年に学生が日常的に授業時間外で学修相談できるリメディアルプログラム、さらに学内の教育力強化プログラムに採択され、2009年度から学生同士が共に学び合う本格的なピア・サポートに発展。以降、毎年のべ2000人以上の学生が訪れるなど、理工系学部生の貴重なアクティブラーニングの場となっています。
 この活動の特徴のひとつに正課の授業・教員との綿密な連携があります。「ホームページなどでの存在の周知、PR活動に加えて、関連する1回生の最初の授業の際に、チラシを配布。もし分からないことなどがあれば、積極的に活用するよう教員から勧めてもらうようにしています」と濱地先生。通常はまず担当の教員のところに質問に行きますが、時間的な制約などもあり、その場で解決するのが困難なケースも発生します。そんな時、頼りになるのが毎日、決まった場所・時間に開催されている物理駆け込み寺のような存在です。
 大学は高校までとは異なり教わるだけでなく、自ら学ぶ姿勢が重要となります。「多様な学生が入学してくるようになり、授業のレベルを保つためにも、授業に付いて来られない学生をなくすためにも、それを補うこうした活動が必要不可欠となります。ここに来るのに下準備なども必要ありません。分からないことを人に聞くことは決して恥ずかしいことではありません。間違えることも当然あります。いけないのは分からないまま放置しておくこと。こんなことを聞いても大丈夫?と思うことでも、何でも質問できる雰囲気を作っています」と俵口先生。敷居を下げ学生の心の不安要素を取り除くことで、常に教室は満員御礼状態となっています。

教わる側・教える側 双方が成長

「学びを深める」ミニ大学的存在
学生講師には、質問する側だった学生も多い
外から様子が見える教室を活用

 名称こそ物理駆け込み寺ですが、狭義の「物理」にとどまらず、あらゆる理工系学科の基礎から専門科目(電気・電子・機械から建築・環境、物理化学や応用数学まで)の質問などを受け付けています。可能な限り質問内容に最も適した学生講師を割り当てる仕組みになっていますが、そうでない場合でも、学生講師と質問学生とが共に考え、答えを導き出すスタイルを採っています。質問が高度な場合などは学生講師間で助け合ったり教員がヒントを出すなど、単に答えを与えるのではなく、学生講師と質問学生の間に問題解決に向けた対話、コミュニケーションが生まれることを重要視した仕組みになっています。「大学での教育は、授業と研究室が中心であることには変わりはありませんが、それを補う仕組みが必要であると考えています。授業と異なり、駆け込み寺では来た学生に合わせて柔軟に教え方を変えることができます。模範解答を一直線に示す対応ではなく、思考に寄り添いながら一緒に考えることを学生講師には心がけてもらっています。現代の大学のカリキュラムは細分化されており異なる学科間での交流が生まれにくい状況ですが、駆け込み寺は学科の枠も回生の枠も超えて議論して学びを楽しむ場となることを目指しています」と俵口先生は話します。
 一見非効率そうにみえるシステムですが、リピーターとなっている1・2回生からは、悩みの共有はもちろん「答えを教えてもらうだけはないので力が付く」「他学科の先輩などに触発され、学びの視野が広がりました」「他分野の研究のことも知ることができ意欲の向上、モチベーションアップにつながっています」、さらに教える側の学生講師陣からも、「忘れがちな基礎の繰り返しができる」「教えることで、学んだことの定着につながります」「自分とは違ったアプローチなど視野や思考が広がります」という声が聞かれるなど、単なる質問の場というだけでなく、互いに学び合うことでのメリットも多く、双方の成長、智慧の循環にもつながっています。

 最近では、盛況な活動の実態を知ろうと他大学などからも見学者が頻繁に訪れるといいます。「多くの場合、こうした取り組みを始めても利用者が少なく開店休業状態だと聞きます。その際、ポイントとしてお話するのが、授業との連携と、教える側から一方的に情報(答え)を流すのではなく、学生間で議論し合い、循環させる仕組みを作ること」と濱地先生。これは立命館のピア・ラーニング、ピア・サポートの理念の原点でもあります。今後は、座学だけでなく実験や工作などでの活動のほか、この場で知り合った他分野の学生同士のつながりを活用した取り組みや他学部の同じような活動との連携による相乗効果などが期待されています。「大学、教員を巻き込み好循環が生まれている。こうした学生主体の取り組みが学内のあらゆるところへ広がっていけば」と、発足当時からサポートする電気電子工学科の森本朗裕教授も活動の利点を話します。
 分野はもちろん役割や学科の垣根、単なる質問の枠を超えた議論をしながら問題解決を目指すこうした立命館の学びのスタイルが、学生の基礎を支えると共に「論理的思考能力」や「コミュニケーション能力」の向上など質的変化を誘起させる重要なポイントとなっています。

■物理駆け込み寺(2016年度後期)
講師:教員7人、院生13人、学部生13人(西園寺奨学生含む)
開催場所:ウエストウイング1階ピアラーニングスタジオ(収容人数・約60人)
開催時間:月~金 16:30~19:30(学期・曜日などにより変動あり)
<常時5~6人の講師が対応。定期試験前などは増員> 質問件数は年間2000件以上

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