低炭素社会実現のための基盤技術開発と戦略的イノベーション | 技術、経済、社会のイノベーションによって低炭素化社会を実現する。

国境をまたぎ、広域に低炭素化を推進

低炭素社会の実現は、21世紀における人類共通の目標です。日本をはじめ先進国は、すでに省エネや高効率化に多大な努力を払っていますが、劇的な成果を上げるには至っていません。今後は、発展途上国も含め、地球規模で協力することなしに、CO2排出の削減は望めないでしょう。

発展途上国は、ポテンシャルは極めて高いものの、経済的、技術的な理由から、CO2削減への取り組みがなかなか進展していません。経済成長や公害克服など、低炭素化のコベネフィットが明確になれば、こうした国々が低炭素化を推進する強力なインセンティブになり得ます。すなわち先進国がコベネフィットの獲得を支援し、一方で途上国は経済的、技術的発展を先進国に還元する。そうした国際的な相互協力関係が、低炭素化を進めるカギになると私たちは考えています。

私たちのプロジェクトが試みているのは、低炭素化を進める革新的な基盤技術を開発すると同時に、経済、社会システムを戦略的に変革することで、国境を越えた国際互恵型広域低炭素社会を実現しようというものです。

「一石多鳥」と戦略的イノベーション

優先的に着手しているプロジェクト活動

本プロジェクトで私たちは、技術、経済、社会の3側面から研究を進めています。低炭素社会の実現可能性について、それぞれの側面から先駆的に実証し、戦略的イノベーションを構想すること、さらには経済、環境、社会の調和を総合的に評価できる新たなモデル「立命館モデル」を開発し、広域低炭素社会実現へのロードマップを作ることを目指しています。

2007年4月より、本学はサステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)の協力大学(主任者:川口清史学長、統括ディレクター:仲上健一教授)として参加し、立命館サステイナビリティ学研究センター(RCS)を設立しました。そしてアジア循環型経済社会の形成に寄与する日中「調和型社会総合モデル」構築といった大規模な「社会実験」の中心的な推進役を担っています。

具体的な実証研究として進めているのが、中国政府から循環経済モデル都市に指定された湖州市におけるパイロットモデル事業です。湖州市は、世界屈指の生産量を誇る竹の産地です。私たちは、湖州市の膨大な竹林を利用したCDM(クリーン開発メカニズム)の方法論を設計しようと考えています。事前調査において、竹は杉の約1.4倍ものCO2吸収量があり、酸素の排出量も多いこと、また成長の速さから伐採や手入れといったコストが比較的低い半面、資材としての用途が多彩であることがわかりました。バイオエタノールへの応用の他、飼料や建築材、繊維など経済活用への道も構想しています。また、多種多様な農産物が生産されている点にも着目し、「日中安全安心農業団地」の創設も進めています。

さらに私たちは、工学的な視点から、都市農村の結合による分散型エネルギーシステムの最適化も図ろうとしています。竹林などを利用したバイオマスや、太陽光熱利用システムの開発を推進します。またバス路線や道路計画なども含め、低炭素型交通システムを整備することで、低炭素社会モデルの創成につなげます。日中比較を通じた幸福指数の測定、福祉システムの設計など、社会的なアプローチも同時に推進しています。草津市、飯田市など環境モデル都市を含めた日本の先進事例との比較研究も試みるつもりです。これらのプロジェクトの特徴は、低炭素社会の実現に寄与するだけでなく、経済性の向上、公害の克服並びにエネルギー安定供給にも寄与できる、いわゆる「一石多鳥」型であることが挙げられます。これは、先進国と途上国が共に温暖化防止に取り組み、「低炭素共同体」を実現するための最も重要な接点でもあると、私たちは考えています。

多様な連携による学際的プロジェクト

こうした研究では、学際的な取り組みが不可欠です。本プロジェクトでは、理論的、実証的アプローチ、文理融合的な研究手法、組織横断的、国際的に連携しながら研究を進めています。いずれは低炭素社会学の研究拠点を形成したい。そこからこれからの地球を担い、こうした研究を国際的にリードする人材を育てたいと考えています。

地球規模での低炭素化は、単に温暖化防止に役立つだけではありません。経済、環境、社会が調和し、持続可能な社会を形成する上でも重要な役割を果たすことでしょう。

サステイナビリティ、低炭素共同体、基盤技術開発と移転、システムイノベーション、調和社会モデル実験、戦略型評価システム

周 瑋生 教授

周 瑋生 教授

1982年 浙江大学工学部熱物理工学科卒業。'86年 大連理工学大学院動力工学科工学修士課程修了、'95年 京都大学大学院物理工学専攻博士課程修了、工学博士。'95年 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員。'98年 RITE地球環境システム研究室主任研究員。'99年 立命館大学法学部助教授、'00年 同政策科学部助教授、'02年 同教授、現在に至る。'03〜'04年 RITE研究顧問。'07年 立命館サステイナビリティ学研究センター長、現在に至る。環境経済・政策学会、エネルギー・資源学会、政策情報学会などに所属。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:周 瑋生

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