窒化物半導体をもちいた環境エレクトロニクスの構築 | エレクトロニクスとの融合が環境問題解決の光明になる。

このプロジェクトは2012年3月をもちまして終了いたしました。

大きな可能性を秘めた窒化物半導体

エネルギー、環境、医療、安全といった21世紀における社会の重点課題を解決するための重要な科学技術基盤を担う材料として、窒化物半導体が注目されています。

特に波長の短い200nm〜350nmの深紫外波長領域で発光するデバイスの開発は、現存する多くの課題を一気に解決する可能性を秘めています。例えば殺菌によって病院内感染を防いだり、PCBのような難分解物質を分解する他、水質浄化にも寄与します。照明や殺菌・衛生、医療、水質保全といった幅広い分野への応用が可能になれば、その市場規模は5兆円にのぼるとの試算も出されています。

しかし深紫外の波長領域で、効率よく、高出力で発光する方法論の確立には世界でまだ誰も成功していません。

高出力の深紫外発光素子を開発

私たちが目指していることの一つは、高出力の深紫外発光素子の実現です。それを可能にするいくつかの独自技術、方法論をすでに獲得しています。一つは、これまでできなかったアルミニウムガリウムナイトライド(AlGaN)系材料で発光素子の縦型構造を作る技術を開発しました。

さらにAlGaNの結晶をさらに高品質化するため、内部量子効率を上げることにも取り組んでいます。本来疑似位相整合系で量子ドットを形成するのは不可能とされてきました。私たちは、アンチサーファクタントを導入して表面エネルギーを下げることで、格子整合系での量子ドットの形成を実現しました。加えて、MOCVD法を用いて、交互供給コドーピング法という新しい手法も開発し、高濃度のp型エピ層を形成することにも成功しました。

レーザー加工機

また極性制御結晶成長法を新たに開発し高品質結晶成長にも取り組んでいます。最も重要な波長である260nm〜330nmで、現在1mWレベルのものを100倍の100mWレベルの深紫外LEDを実現することが目標です。

またプロジェクトでは、名西憓之教授を中心に深紫外領域だけでなく、長波長領域である赤外領域にも着目、赤外光源を利用した高効率赤外発光素子の開発も進めています。その他インジウムナイトライド(InN)を用いて、高出力、高耐圧省エネルギーの高速電子デバイスの開発にも取り組んでいます。この分野では、最近新たにドロップレットを用いた高品質InN結晶成長法(DERI法)を開発し従来困難であった高品質InN結晶成長に大きな進展をもたらしました。

深紫外LEDによる水の殺菌、オゾン計測の原理実証研究に成功

我々は独自で作製した深紫外LEDを用いMS2、Qβ、φX174バクテリアウイルスの殺菌効果を255nm、280nmの深紫外LEDを用いて実証することに成功しました。従来の水銀灯を用いた殺菌が環境に悪い水銀を用いているのに比べ本方法は水銀を用いることなく、また将来、小型化、長寿命化、大面積化が可能であり、新しい水殺菌法になると期待されます。特に我々はLED作成上、性能、コストの面で遙かに良好な280nmで発光するLEDを殺菌に用いることがトータルシステムとしては有効であることを提案しています。また、環境問題でオゾンの計測が大変重要ですが、我々は最近深紫外LEDを用いて0.1ppmの法定安全基準以下のオゾンの濃度を容易に測定できる高感度、高性能なオゾン計測に成功しました。これによりオゾン計測器の小型化、長寿命化、高感度化の道が開かれました。これらはいくつかの企業との共同研究を実施し実現に向けて開発を進めています。

窒化物半導体、有機金属気相成長法、分子線エピタキシー法、発光ダイオード、パワーエレクトロニクス、環境エレクトロニクス、高出力深紫外発光素子

青柳克信教授

青柳克信教授

1965年 大阪大学基礎工学部電気工学科卒業。'71年 大阪大学大学院基礎工学研究科物理系博士単位取得退学。'70年 日本学術振興会研究員、'72年 理化学研究所半導体工学研究室研究員。'77年 同レーザー科学研究グループ研究員、'88年 同主任研究員。'91年 同半導体工学研究室主任研究員。'00年 東京工業大学総合理工学研究科教授兼理化学研究所主任研究員など。'08年 立命館大学R-GIRO特別招聘教授、現在に至る。応用物理学会、日本物理学会、レーザー学会に所属。'83年 大河内記念技術賞、'91年 市村学術賞特別賞、'93年 全国発明表彰特別賞弁理士会長賞、'95年 応用物理学会賞、'97年 科学技術長官賞、'04年 マイクロプロセス国際学会Best Paper Award、'07 応用物理学会フェロー、'08年 応用物理学会論文賞を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:青柳克信

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