微生物を活用した次世代の育種・栽培・防除技術開発による農作物生産向上 | 多彩でユニークな微生物が、安全・省力の究極の農業を生む。

多彩でユニークな代謝を持つ微生物を農作物の生産向上に役立てる

微生物の種類は想像を絶するほど多く、これまでに人類が活用しているのはその中のほんのわずかに過ぎません。微生物の多彩でユニークな代謝産物、微生物が生産する酵素、タンパク質には、私たちが思いもしない生理活性を持つものがまだたくさんあるはずです。私たちは、それらの構造や機能を解明し、さまざまな領域に役立てることで社会の持続的発展に寄与したいと考えています。

中でも今、地球規模で課題となっているテーマに食料と環境があります。私たちは、農作物の環境負荷の少ない栽培、安全性と品質の高い生産、それに伴う農業の経済活性化にも、微生物の活躍する余地があると注目しています。本プロジェクトでは、微生物を活用した次世代の育種・栽培・防除技術の開発による農作物の生産向上を目指します。それによってより安定した食料供給を実現するのが、究極の目標です。

多様な微生物とその機能を集約した「微生物工場」を構築

このプロジェクトの基盤となるのが、「微生物工場」です。R-GIROの他のプロジェクトとも連携し、多種多様な環境下の微生物を収集するとともに、研究を通して解明したさまざまな微生物の機能や代謝システムをファクトリー化しようと考えています。

着目しているものの一つが、微生物由来の細胞壁溶解酵素です。グルカナーゼを主とする細胞壁溶解酵素は、植物の病原菌の細胞壁を溶解することが知られています。植物の栽培では害虫・妨害の駆除が大きな課題です。細胞壁溶解酵素を用いて微生物由来の酵素農薬の創製に結びつけることもできるかもしれません。

また私がこれまで取り組んできた硫黄・セレンを含む補因子や有用バイオファクターの生産に応用可能な硫黄・セレン転移酵素群の機能解明においても、興味深い関連を見出しています。セレンは、哺乳動物の必須微量元素で、セレノシステイン残基としてセレンタンパク質に存在し、触媒反応に必須の役割を果たします。一方、硫黄も多彩な機能を持ち、生体に極めて重要な役割を果たしています。これまでの研究で、硫黄・セレンの挿入過程においては、複数のタンパク質間の相互作用を介した特異的セレン・硫黄転移機構によって、酵素の高機能・高特異性が発揮されることを明らかにしました。こうしたタンパク質群を利用すれば、バイオファクター前駆体への硫黄・セレン挿入を効率よく行うことができ、含硫・含セレンバイオファクターをつくることが可能になります。

研究成果を活用し育種、栽培、防除技術の向上に寄与

プロジェクトでは、こうした個々の研究成果の集大成でもある微生物工場を活用し、食料生産向上にむけて育種・栽培・防除技術の向上につなげていきます。そのためにまず必要なのが、農作物の安全性を評価するための信頼できる科学的・統計的診断システムの構築です。微生物が持つ光、温度、ガス、金属、栄養分をはじめとするさまざまな環境応答システムを解明し、それを利用したバイオセンサーを開発しようと考えています。より簡便で安価な方法として、生物材料を用いて評価するバイオアッセイ法も導入し、農業に従事する人がその場で用いることができるような、食糧生産現場で実際に普及可能な手法を開発します。また先ほど述べた細胞壁溶解酵素のように、自然界に存在する生体分子の特性を活用し、安心で安全な防除システムを構築する研究も進めていきます。

さらには微生物の育成、形態形成、光応答、金属代謝、栄養素代謝、病害発生などにかかわる遺伝子やタンパク質、およびそれらの働きのメカニズムに関する知見を集積し、環境変化によってその特性が大きく左右されない耐環境型農作物の作製技術の基盤の構築を目指します。いずれはその成果を植物工場において農作物を栽培、評価し、実用へと結びつけていくつもりです。

微生物、育種、栽培、防除、発酵、農業、酵素

三原久明 准教授

三原久明 准教授

1993年 京都府立大学農学部農芸化学科卒業、'98年 京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士後期課程単位取得退学。その間、'97年 日本学術振興会特別研究員 (DC2)。博士(農学)。'99年 京都大学化学研究所非常勤研究員、'00年 京都大学化学研究所助手、'07年 京都大学化学研究所助教を経て、'09年 立命館大学生命科学部生物工学科准教授、現在に至る。農芸化学会、生化学会、微量元素学会、ビタミン学会、微量栄養素学会、バイオインダストリー協会に所属。第2回酵素応用シンポジウム研究奨励賞を受賞、'10年日本生化学会奨励賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:三原久明
応用分子微生物学研究室(三原研究室)

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