農山村部におけるクールベジタブル農法を核とした炭素隔離による地域活性化と地球環境変動緩和方策に関する人間・社会次元における社会実験研究 | 新たな人間・社会次元システムにより世界の気候変動緩和に一石を投ず。

CO2削減に貢献する炭素埋設農法

2009年9月22日、国連気候変動首脳会議において、鳩山由紀夫首相が「日本は2020年までに1990年比で25%のCO2削減を目指す」と表明しました。京都議定書での日本の削減目標である基準年比6%削減すら厳しい現状にあって、CO2の大幅な削減を実現するためには、技術および社会システムの抜本的な改革が不可欠です。その解決に一石を投じるべく私たちが取り組んでいるのが、「炭素埋設農法(通称:クールベジタブル農法)」を通じた炭素隔離実験です。

「クールベジタブル農法」とは、農山村地域にある未利用のバイオマス資源を自己燃焼による反応熱で自己炭化し、土地改良材としてその炭を埋設利用する農法です。京都府亀岡市に実験場を定め、2007年度から実験を続けています。

CO2排出量取引、農作物のブランド化を農山村部の経済復興の起爆剤に

この実験の成功がもたらすメリットは、実に多様かつ甚大なものです。まず挙げられるのは、日本の温室効果ガス(GHG)削減目標の達成に大きく寄与する点です。私たちは、放置竹林や農産廃棄物といったバイオマス資源を炭化し、堆肥と混合して利用することで、地表上から安定的に炭素を隔離し、地中に埋め戻す炭素貯留システムを確立しつつあります。私たちの試算では、日本の田畑の総面積465万haに対し、1haあたり25tのバイオマス炭(炭素含有率80%)を投入すれば、農地という土地の炭素隔離貯留機能として新たに、京都議定書における日本の年間CO2排出削減必要量の1.3倍に相当する炭素を隔離することが可能となります。今後は、途上国など他の地域でも普及可能な簡易炭化とともにシステムとして確立することを目指しています。

次なるメリットは、農山村部の経済復興の駆動力となり得る点です。プロジェクトでは、農地機能としてバイオマス炭をカーボンクレジットとして国内のCO2のボランティア市場に投入する方法を見出し、都市から農山村部への持続的な資金還流システムを構築しようとしています。また都市部と農山村部との経済循環には、当然炭素だけでなく農作物も寄与します。クールベジタブル農法で栽培された農作物の機能には、消費者のエコマインドに応える形で販売することで、農山村部においては地産地消地廃地活型の経済振興に、一方都市部においては生活者の環境改善意識・行動の高まりに応える政策となり得ます。すでにコープこうべの協力のもと、農作物の都市部消費者への販売実験および消費者のクールベジタブルに対する支払意志額の調査を始めています。

もちろんクールベジタブル農法の技術と有効性の検証も欠かせません。亀岡市の農地でのバイオマス炭化物の田畑埋設実験において、実質隔離炭素量を実際に測定し、GHG排出削減効果を同定しています。そして農産物の品質向上に関する検証実験も実施し、ライフサイクル評価を含め、農業生産の見地からも一定程度生産性の高さを確かめました。今後は、長期の時間経過の中でどのように安定した難分解性土壌炭素貯留を実現できるかなどの検証が必要となります。

世界の気候変動緩和対策へ向けた先鞭

クールベジタブル農法を通じた炭素隔離量を科学的に検証することは、一国だけの環境政策、経済政策に留まりません。炭素隔離は、2006年にIPCC(※)から将来的に温室効果ガス削減手段として可能性があるものとしてリストの筆頭に位置づけられています。同時に地球環境変化に関する人間的な側面に言及するIHDP(※)でも評価され始めています。私たちは、研究成果を英語での論文発表を通じて世界に公表することによって、炭化物を用いたCO2削減がIPCCに認定されることを目指しています。そのためにJBA(※)、IBI(※)とも歩調を合わせ、国際学会や国際学術雑誌へも公表しています。2009年度からは農水省の調査事業として国家の環境政策、さらには日本初、地球規模の気候変動緩和対策に貢献することになる重大な研究プロジェクトだと自負しつつ、IHDP研究として進めています。

※IPCC:気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)
※IHDP:地球環境変化の人間的側面国際計画(International Human Dimensions Programme on Global Environmental Change)
※JBA:日本バイオ炭普及会(Japan Biochar Association)
※IBI:国際バイオチャー・イニシアティブ(Intergovernmental Biochar Initiative)

CCS(Carbon Capture Storage)バイオマス炭化、カーボンクレジット、クールベジタブル、第一次産業振興

鐘ヶ江秀彦 教授

鐘ヶ江秀彦 教授

1994年 東京工業大学理工学研究科社会工学博士後期課程修了。博士(工学)。'01年 東京工業大学社会理工学研究科助手。'02年 立命館大学政策科学部助教授。'06年 同教授。'06年 立命館大学地域情報研究センター長を経て、現在に至る。日本学術会議連携会員、日本経済学会連合会評議員、横断型基幹科学技術研究団体連合代議員。木質炭化学会、JBA、日本計画行政学会、日本地域学会、日本都市計画学会、日本不動産学会、地域安全学会、日本シミュレーション&ゲーミング学会(副会長・理事)、日本環境共生学会(理事)、資産評価政策学会(理事)等に所属。'99年 日本シミュレーション&ゲーミング学会賞・優秀賞、'05年 日本計画行政学会2005年度学会賞・論文賞、'09年 日本地域学会2009年度学会賞・著述賞を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:鐘ヶ江秀彦

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