MEMSとBME(bio medical eng.)のマルチスケールフュージョン研究 | ミクロの世界から医療技術を革新するインタフェースを実現。

マルチスケールのインタフェースに挑む

半導体製造技術の飛躍的な発展を受け、その技術を応用する微小電気機械システム(MEMS)分野もまた、目覚しい成長を遂げています。携帯電話や自動車など、いまや身の回りのさまざまな機器にMEMSが搭載されていることは、周知の事実でしょう。MEMSの扱う領域は広く、電気や機械分野のみならず、化学、バイオ、医療分野と多岐にわたります。中でも近年は、生体との高い適合性を持つインタフェースとして、バイオや医療分野への応用に期待が集まっています。

私たちの研究グループは、早くからMEMSをBME(バイオメディカルエンジニアリング)に応用する研究を進めてきました。BMEが扱う生体は、器官、組織、細胞(構成要素)というように大きいスケールから、ミリ、マイクロ、そしてナノスケールへと、多様なスケール対象があり、MEMSはスケールに応じて対応できる可能性を持っています。これまでの実績を生かし、本プロジェクトでは、マルチスケールでMEMSとBMEを融合させた新しい技術のインタフェースを構築し、最も期待されている医療分野の技術革新を目指していきます。

マルチスケールインタフェースのイメージ図

低侵襲医療ツールを開発

私たちの研究グループはこれまでにさまざまなスケールの医療ツールやデバイスを開発してきました。比較的大きなスケール領域であるミリスケールのものとしては、圧力駆動による曲げ動作を行うアクチュエーターの開発が挙げられます。例えば長さ7mm、太さ約1mmのシリコーンゴム素材でできたロボットのマイクロフィンガーもその一つです。マイクロフィンガーの内部はバルーン構造になっており、加圧によって関節部分のマイクロバルーンが収縮・膨張し、指が屈伸する仕組みです。同じく圧力駆動ツールとして、体内に挿入して術野を確保するデバイスも医療機関と共同で開発しました。

さらに眼球内に細胞シートを移植する移植ツールの実現にも医療機関と共同で取り組みました。ツールの初期状態は、2.5mm×2.5mm×350μmの平面状ですが、加圧によって直径1.3mmの筒状に変形することが可能です。筒状態では、挿入器具である注射針の中に収納することができます。これによって眼底で注射針(直径2mm程度)から出てシート状に開き、患部に水平にアプローチして細胞シートを移植する機能を実現しています。すでに移植ツールによる細胞シートの移植操作実験が進んでいます。

以上のような電気を用いないアクチュエーターをはじめ、体を傷つけない低侵襲ツール、デバイスの開発に挑んでいます。

ナノスケールの医療デバイスを実現

より小さいマイクロスケールのインタフェースにおいても、いくつもの開発実績を有しています。神経インタフェースの研究もその一つです。神経に200μmほどの計測電極を装着して、脳からの神経信号を計測し、体内の神経系を経ることなく刺激電極から直接筋収縮をコントロールするための電極、デバイスを開発するまでに至っています。

さらに微小なナノスケールでは、細胞操作や細胞信号計測・解析の可能なMEMSチップを開発しています。数μmの穴が64個空いたマイクロチャネルアレイは、吸引により細胞をチャンネル部にトラップし、チャネルに作り込まれた電極で細胞に刺激を与えたり細胞の信号を計測したりすることが可能です。チャネル内に磁気回路を一体化したチップでは、チャネル部に磁性細胞を磁力で誘導することにも成功しています。多数の細胞を配列することは再生医療における組織形成にも重要な技術となります。

10余年にわたる研究の結果、バイオから神経、医療に至るマルチスケールインタフェースを使って生体とのインタラクションに関する可能性がどんどん広がり、応用として医療現場のニーズに応えるさまざまなツールが形になりつつあります。今後もこうしたニーズに敏感に対応しながら、技術革新をもたらす新しいシーズの創製にも力を注いでいくつもりです。

MEMS、マルチスケールインタフェース、S3(Small Soft Safe)マイクロマシン、BME

小西 聡 教授

小西 聡 教授

1991年 東京大学工学部電子工学科卒業。'93年 日本学術振興会特別研究員。'96年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。'96年 立命館大学理工学部専任講師、'99年 同助教授。'02年 カリフォルニア工科大学研究員、'06年より立命館大学理工学部教授、'07年 滋賀医科大学客員教授、現在に至る。Sensors and Actuators Section Editor、IEEE International Conference of MEMS 2007実行委員長。電気学会、日本機械学会、日本ロボット学会、応用物理学会、炭素材料学会、日本コンピュータ外科学会、米国電気電子学会(IEEE)、に所属。'05年 日本コンピュータ外科学会2005年度講演論文賞、IEEE MHS 2005 Best Paper Award、'07年 細胞性粘菌研究会優秀賞、日刊工業新聞社モノづくり連携大賞特別賞等を受賞。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:小西 聡
Micro・Nano Mechatronics Laboratory 小西研究室

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