多次元医用データの統計モデリングと診断補助支援(CAD)システムの開発 | 画像診断の精度を飛躍的に高める多次元医用データを解析する新手法。

画像診断技術の向上を目指す

医療機器の著しい発達によって人体内部を高精細に撮影することが可能になり、画像に基づく診断は注目されるようになりました。とはいえ現在でも、画像診断には数百枚単位の読影を必要とし、その労力は決して軽視できません。また各機器によって特性も多様で、いまだ十分に確立されたとはいえないのが現状です。

画像診断の精度、効率を高め、医療の質向上に役立てるのが私たちの目標です。このプロジェクトでは、CTやMRなどの医用画像データを集めてデータベースを構築し、統計的にモデリング、最終的にはモデルをベースに、解剖学知識や医師の経験を組み込んだコンピュータ画像診断システムを開発しようと試みています。

多様な診断機器から多次元情報を収集

CT、MRI、PETなど、人体の内部構造を画像化する機器にはさまざまな種類があります。骨などの硬組織を撮影するCT、臓器などの軟組織を撮影するMRI、そして生体の機能情報を得るPETというように画像も多様です。こうしたさまざまな機器から得られる3次元のボリューム画像やモダリティ情報、さらには時間情報など、多次元の情報を組み合わせることによって、より高精度の診断を可能にする多くの情報を集められることに私たちは着目しました。しかし多次元データの量は膨大なため、統一的に解析する手法はこれまでありませんでした。

私たちはまず、医用画像のデータベースを作ることから始めました。このプロジェクトの強みは、滋賀医科大学や大阪大学医学部と協力することで、実際の医用データを学習サンプルとして収集するだけでなく、解剖学の知見や医師の経験も、後に診断システムを開発する際に反映させることができることです。

画期的な統計的モデリング手法を開発

次いで、集めたデータから統計的モデリングを作り上げました。人体内部の病気を発見するには、形状のみならず、内部の濃度値を表現する必要があります。従来の人体の臓器構造のモデリングは、形状のみあるいは一症例のみを3次元に可視化するものでした。ボリューム画像の膨大なデータを解析することができないことが理由です。さらに人体、臓器には個人差があります。典型的な構造を示すサンプルを形成するならともかく、統計的モデリングを実現するには、複数の臓器の関係や、内部構造の平均値に加えて、バリエーションも記述できなくてはなりません。

私たちは、データをテンソルとして扱うことで、多次元医用データを多次元のまま解析できる一般化N次元主成分分析法(GND-PCA)を開発し、少数のサンプルから、汎化能力の高い統計ボリュームモデリングを可能にしました。これは、それまでにない画期的な成果です。実際に17例の脳のサンプルを採取し、GND-PCAを用いてそのうちの16例から残り1サンプルをモデリングできるかを検証しました。その結果、GND-PCAで高精細、かつ正確なモデルを作れることを実証できました。

新開発した医療画像処理による肝腫瘍手術ナビゲーション支援システム

現在は、完成した統計的モデリングを用い、多次元画像診断システムの開発に着手しています。今後は、正常および異常のサンプルからさまざまな病気に寄与する成分を抽出し、正常、異常を診断するための指針を確立します。また診断するための学習方法の開発に取り組んでいきます。

私たちが構築する全く新しいシステムが、いずれ病気の診断精度を向上させるだけでなく、ガンなどの早期発見を可能にし、医療に大きく貢献できるに違いないと確信しています。

多次元医用画像データ、診断援助(CAD)、統計モデリング、一般化N次元主成分分析(GND-PCA)、臓器内部の構造記述

陳 延偉 教授

陳 延偉 教授

中国杭州市生まれ。1981年 来日、'85年 神戸大学工学部卒業。'90年 大阪大学工学研究科博士課程修了。工学博士。'91年 レーザー技術総合研究所研究員、'94年 琉球大学工学部講師、'95年 同助教授、'03年 同教授。'03年 オークスフォード大学客員研究員などを経て、'04年 立命館大学情報理工学部教授、現在に至る。電子情報通信学会、日本医用画像工学会、IEEEに所属。中国科学院Overseas Assessor、 国際学術誌International Journal of Image and Graphics (IJIG)副編集長。

研究者の詳しいプロフィール
立命館大学研究者データベース:陳 延偉
知的画像処理研究室

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