Research Story 〜つながる研究、つなげる研究〜

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Story #10 末近浩太

イスラーム政治運動への理解不足が負の結果を生んできた。

現代の中東政治、とりわけ東アラブ地域におけるイスラーム政治運動の動向を研究しています。2001年の9.11事件以降、イスラームの政治運動は十把一絡げに「イスラム原理主義」などと呼ばれ、西側諸国の脅威とみなされる傾向が強くなりました。こうしたなか、米国主導で進められた「テロとの戦い」や「中東民主化」は、中東諸国間の亀裂をも深め、パレスチナとイラクにおいては深刻な暴力と混乱をもたらしました。確かに、イスラーム政治運動のなかには政治的暴力に訴えるものもあります。しかし実際には、その実態は十分に把握されているとはいえず、偏見や先入観、誤解が現実の政治において負の結果を生み出していることは見逃せません。

私は、イスラーム政治運動をめぐる「知の空白」を埋めることで、中東政治がどのように動いているのか、そのメカニズムを理解するための視点を提供することを目指しています。それは、学術的な意義だけでなく、イスラームというものが存在感を増しつつある21世紀の国際社会とその一員である日本のニーズに応えることにもつながるはずです。

武装組織、政党、そして社会奉仕に尽力する顔。

私が中東地域に目を向けることとなったきっかけは、1980年代末の東西冷戦の終結でした。当時私は中学生だったのですが、日本における「資本主義の勝利」といった楽天的な機運にいくばくかの違和感を覚えるなかで、資本主義でも共産主義でもない全く異なる論理で生きる人々に関心を抱きました。

イスラーム政治運動は、その一部が米国国務省によって「国際テロ組織」に指定されていることなどから、軍事活動やテロ活動がクローズアップされがちです。しかし現地を訪れてみると、実態は多くの人が想像しているようなテロ組織とは、大きく異なるものでした。私が研究対象とする運動は、長年にわたって武装闘争を続けてきた軍事組織であると同時に、国内では連合与党を組んで政権を担う政党でもあります。それだけでなく、医療や教育、福祉、開発といった社会奉仕に尽力するNGOとしての顔も持っています。近年は、戦争で破壊された道路や橋などのインフラを整備し、負傷者や家を失った人びと、孤児の支援に力をいれています。こうした運動は、住民の生活空間にすっかり溶け込んでいます。

私の研究では、原典資料の解析と現地調査を通して、「彼ら」の考え方や行動原理の理解を試みるという「地域研究」の手法を用います。例えば、そのイスラーム政治運動の支持者の素顔を知るために、その運動の支配地域に暮らす人びとや関連団体へのインタビュー調査を実施しました。苦労したのは、私のような外部からやってきた研究者をなかなか受け入れてもらえなかったことです。彼らは武装闘争を続ける軍事組織としての顔を持っていることから、「スパイ」に対する警戒心が非常に強いのです。

調査の結果明らかになったのは、支持者たちのほとんどが「テロリスト」でもなければ権力闘争に狂奔する政治活動家でもない、ごく普通の人びとであったことです。彼らは運動の支持者であると同時に、私たちと同じように、安全で豊かな生活を送りたいと願っている人びとなのです。このような中東地域の「見えにくかった部分」を浮き彫りにし、それを手がかりに中東政治のメカニズムを理解するための新たな知見を提供したいと考えています。

「地域研究」から始まる中東・イスラーム地域とのつながり。

今後、日本にとっても世界にとっても、中東地域とイスラームへの理解を深めることは、ますます重要になっていくでしょう。地域に密着してその実態を解き明かす「地域研究」が、日本がどのような外交を展開すべきなのか、あるいは私たちが中東・イスラーム諸国の人々とどのように向き合うべきなのかといった、未来志向の建設的な議論に貢献できることを望んでいます。

研究の面では、中東・イスラーム地域研究にはまだまだ手つかずのテーマやトピックが数多くあり、フロントランナーとして力を発揮できる可能性に満ちています。若い皆さんにとっても、挑みがいのある研究領域だと思います。

  • 官公庁のみなさまへ

    わが国の対中東政策、とりわけ関与と援助の方法を考えるために有効な視点・情報を提供し、外交政策に貢献することができると考えています。

  • 若手研究者のみなさまへ

    まだ開拓途上の研究分野で、手つかずのテーマが数多くあります。フロントランナーとして力を発揮できる可能性に満ちています。


末近浩太

Kota Suechika

国際関係学部 准教授

2004年 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科五年一貫制博士課程修了。博士(地域研究)。2004年 日本学術振興会特別研究員(PD)、2006年 立命館大学国際関係学部准教授、現在に至る。2009-10年 オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジ研究員。日本中東学会、日本国際政治学会、日本比較政治学会に所属。

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