Research Story 〜つながる研究、つなげる研究〜

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Story #11 高村学人

コモンズ理論を手掛かりに、現代都市の共有地を考える。

コモンズ理論を手掛かりに、法社会学の立ち位置から現代の都市再生について考察しています。コモンズとは、地域の共同資源、いわゆる共有地を指します。日本では明治・大正期、山野海川は地域共同体の慣習的ルールによって管理されていました。この慣習的ルールがいかなる構造を持っているかを調査によって明らかにし、裁判上もこの慣習的ルールが尊重されねばならないと主張したのが、日本における法社会学の誕生でした。そしてその構築に影響を与えたのが、コモンズという概念です。

現代にもさまざまな形態のコモンズが見られ、コモンズ理論はいまなお多くの研究者にとって関心の高いテーマです。しかしこれまでのコモンズ研究は、伝統的コモンズを破壊してしまった現代社会を批判的に論じることには貢献したものの、その結果が現実の政策論にまで結びつかないという限界を抱えていました。

私は、コモンズの概念を懐古的に評価するのではなく、現代都市のローカルコミュニティに今なお存在する「住民が共同で利用し、便益を受ける資源としてのコモンズ」のガバナンスを向上させることを目標に据えています。そのための法制度を設計することまで視野に入れているところに、研究の意義と独自性があります。

児童公園調査から見えてきた意外な維持管理のメカニズム。

これまでに、ハーディンから2009年度ノーベル経済学賞を受賞したオストロムへいたるコモンズ理論をひもとき、それを指針として現代都市における児童公園や景観、マンション、空地・空家といったコモンズのガバナンスの実態を分析し、ガバナンスを支援するための法の役割を検討してきました。その成果の一つが、草津市における児童公園を対象とした調査研究です。草津市と連携し、草津市内の児童公園の全ての管理団体および、二つの町内会の全世帯に対する悉皆調査を実施。コモンズ理論を適用して、草津市における児童公園の性質や利用形態、維持管理の仕組みを分析しました。

草津市内の児童公園の維持管理は、公園に隣接する町内会の住民達が担っています。しかし利用者が維持管理に能動的に参加することは自明ではなく、荒廃している公園も少なくありません。どのような人々が公園の維持管理に積極的かを分析したところ、興味深い事実が明るみになりました。まず分かったのは、維持管理活動の熱心な担い手は、町内会やPTAなどの地域活動を担っている方々ではなく、ゲートボールやガーデニングなど組織されたグループ活動の参加者が、町内会とは別に公園の維持管理活動を自発的に行っているということでした。この結果は、町内会などの地域組織がしっかりしていれば、コモンズの維持管理も徹底されるとする、これまでの「常識」を覆すものです。こうした成果は、公園の維持管理活動を推進するための政策や法制度を整備する上で有用な知見を提供します。

法社会学の立場から、政策立案・町づくりに独自の視点を提供する。

法社会学から社会を捉えることで、政策立案やまちづくりにおいて、他にはない独自の視座を示すことができる点が、本研究の強みです。もちろん提言がそのまま政策に反映されることばかりではありません。研究者として歯がゆい思いをすることもあります。しかし地域政策に貢献できるやりがいは、やはり大きいものです。

二十代の私は、今のような実践的研究ではなく、フランスの歴史社会学的な研究を文書史料に基づいて地味にやっていました。社会と直接結びつく実践的な研究が求められる今だから実感するのは、培ってきた学術的・理論的基盤がいかに重要かということです。他の人にはない独自の視点やアプローチを提示してこそ、他領域との連携は意味を持ちます。社会に役立つことを念頭に置きながらも、若いうちは確かな基礎を築くことを大切にしてほしい。基礎に裏づけられた自分だけのものの見方を確立して初めて、社会に必要とされる貢献ができるのだと思います。

  • 地方自治体のみなさまへ

    法社会学から社会を捉えることで、地方自治体の政策立案やまちづくりにおいて、独自の視座を示すことができます。大学という立場から、さまざまな自治体や地域をつなぐ役割を果たすこともできます。

  • 若手研究者のみなさまへ

    他の人にはない独自の視点やアプローチを提示するには、そのベースをつくる必要があります。若いうちは理論研究や文献研究にも注力し、確かな基礎を培いましょう。


高村学人

Gakuto Takamura

政策科学部 准教授

1998年 早稲田大学法学研究科博士課程中退。博士(法学)。専門社会調査士。1998年 東京大学社会科学研究所助手、2001年 東京都立大学法学部助教授、2003年 エコール・ノルマル・スペリゥール・ドゥ・カシャン客員研究員、2007年 立命館大学政策科学部准教授、現在に至る。日本法社会学会、コミュニティ政策学会、Association Française de Sociologieに所属。2008年 渋沢クローデル・ルイヴィトンジャパン特別賞と日本法社会学会・学会奨励賞を受賞。

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