Research Story 〜つながる研究、つなげる研究〜

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Story #16 吉田満梨

発展途上国の開発援助から、マーケティング研究へ。

私がこの研究分野に足を踏み入れたのは、1冊の本との出会いがきっかけでした。国際関係学部だった大学時代は、発展途上国の開発援助に関心を抱いていました。ネパールを訪れ、そこでの人々の暮らしを見たことでフェアトレードを思い立ち、帰国後、有志の学生と共に、現地から製品を調達し、販売を始めました。ところが直面したのは、思った以上に商品が売れないという現実でした。どうしたら商品が売れるのか、ヒントをつかみたくて手に取ったのが、『ブランド 価値の創造』(※)という書籍でした。その内容に感銘を受け、著者の先生に教えを請うべく、先生のいる大学の修士課程への進学を決めました。その書籍で心を引かれたのは、既存のマーケティング理論では説明できない、しかし現場で働く人が感じている現象を捉えようとしているところでした。そこにこそ解き明かすべき本質的なことがある。その確信が、現在の研究の出発点になりました。

(※)『ブランド-価値の創造』 石井淳蔵 著 岩波新書 1999

企業や市場の「関係性」の中で市場が創造される過程を読み解く。

私が一貫して関心を抱いているのは、それまで存在しなかった、あるいは顕在化していない市場機会にどうアプローチするかということです。伝統的なマーケティングのアプローチでは、マーケットリサーチや競争分析を通して市場環境を分析し、それに基づいて事業計画や製品開発の戦略を構築します。一方、私が注目するのは、「遂行的アプローチ」と呼ばれる手法です。これは、既にある資源や入手可能な道具を出発点として、当初は予期しなかった新しい関係性や環境を後発的に創造していくことを志向するものです。企業の行為と市場環境が絶えず関与し合い、顧客や競合企業といったステークホルダーとの関係を通して積極的に新しいマーケットのルールを共創する。こうした「関係性」や「共創」を重視する遂行的アプローチと従来の環境理解を重視する予測的アプローチは両立し、補完し合う関係にあります。

私は、緑茶飲料市場の成長を研究する中で、この両アプローチが機能した好例を見出しています。茶葉および飲料の製造・販売事業を展開する伊藤園への調査を実施し、それまでなかった緑茶飲料市場が形成されるにいたった経緯を分析しました。当初「茶葉」という伊藤園の企業資源をもとに飲料市場への参入を図ったものの、「お~いお茶」への商品名の変更、健康・美容への関心の増大といった予期せぬ要因によって、発売から数年を経て大ヒット。結果的に「緑茶飲料市場」という新しい市場が創られたことが分かりました。この過程は、まさに「遂行的アプローチ」を体現しているように見えます。しかし一方、その過程では、「飲料化比率」という指標を用いることで、社内・社外のステークホルダーを積極的に巻き込み、「予測的アプローチ」によって緑茶飲料に対するニーズに自信と明確なビジョンを得たことが、ヒットにつながるまで社員やステークホルダーのモチベーションを支えたこともわかりました。

競合企業同士が共に市場を創り上げる構図を見出した。

同じく茶系飲料について分析した別の研究では、花王の「ヘルシア緑茶」、サントリー「黒烏龍茶」の開発と大ヒットにつながったプロセスを明らかにしました。ここでも「遂行的アプローチ」によって、緑茶飲料市場から事後的に「健康飲料市場」という新たな市場が創出されたことを見てとることができます。当初の製品価値が市場からの反応を受けて変化し、当初とは違った市場が見出され、その市場に適合することでヒット商品となったことが分かりました。さらに健康飲料市場においては後発者だった伊藤園が「カテキン緑茶」をヒットさせたことにも着目。多様な経営資源を持つ競合企業同士が、差別化した製品によって一つの市場を創り上げることで、いずれにもメリットがもたらされる構図も見出しました。

これまでのマーケティング研究において、新たな市場形成に成功したいずれの企業にも共通していたのは、技術の蓄積や独自資源の価値を、消費者や他社といった市場との対話を通じて見出していることでした。日本の企業はとりわけ、高い技術力を有する一方で、それを効果的に市場に投入するすべが弱いといわれています。それぞれの企業との関係性の中で、有意な知見・情報を提供することでそうした課題にも応えていけるのではないかと考えています。

参考文献:『ビジネス三國志 マーケティングに活かす複合企業分析』 プレジデント社 2009 pp.107-152

  • 企業のみなさまへ

    ヒット商品の開発や新しい市場の形成のプロセスやメカニズムを詳らかにすることで、新たな製品開発や市場開拓をお手伝いしたいと考えています。

  • 若手研究者のみなさまへ

    日々の研究は、地道な作業の積み重ねです。けれど、誰も知らない新しい事実を、確固とした証拠に基づいて見出すことに楽しさを感じられればきっと、やりがいを持って研究を続けていけると思います。


吉田満梨

Mari Yoshida

経営学部 准教授

2003年 立命館大学国際関係学部卒業。2009年 神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(商学)。2009年 首都大学東京都市教養学部助教、2010年 立命館大学経営学部准教授、現在に至る。日本商業学会、組織学会、日本消費者行動研究学会に所属。

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