Interview 教育・研究の質向上をめざして
「未来をつくる R2020 立命館学園の基本計画」の完成と、これからの学園づくり
川口清史

川口清史(かわぐち きよふみ)
学校法人立命館総長
立命館大学長

立命館大学政策科学部教授、博士(経済学、京都大学)
専門分野は経済学(経済・社会システム、経済事情および政策学)

2009年の学園ビジョンの策定からはじまった「R2020」の補正版が、このたび完成しました。

このR2020補正版をつくっていく議論の最中に、東日本大震災、福島第一原子力発電所の事故が起きました。今後の復興のために、教育・研究機関としてどのような役割を果たしていくべきか、この点は大きな議論となり、補正版にも新たに項目を起こしました。また、大阪茨木新キャンパスをはじめとした3キャンパスの課題、心理・教育系分野の教学を取りまとめる人間系新学部構想の検討、別途検討されてきた教員整備に関わる項目を新たに加えました。

このR2020が完成するまでの議論状況は。

今回の補正版では、2015年の大阪茨木新キャンパス開設をめざして、今後具体的な検討を進めていくことが決まりました。また、政策科学部・同研究科、経営学部・同研究科の新展開を大阪茨木新キャンパスで行うべく、今後教学内容の議論を深めていきます。政策科学部・経営学部においては、今後は2015年の新展開に向け、より具体的に学部の展望を議論していただき、その内容を全学で共有し、相互に支援していくことが必要です。政策科学部・経営学部とも、社会と密着した課題解決型という点において、共通性を持っており、この2学部が大阪という土地で教育・研究を行うことは大きな意味があると考えています。大学院についても、こういった学問分野は社会人の方からも支持され、また学ぶ環境としてもより充実させていくことができるのではないでしょうか。

キャンパス創造に関わって、現在議論されているものはありますか。

キャンパス創造委員会のもとに3つのワーキンググループ(研究所・大学院、BKC将来構想、大阪茨木新キャンパス調査)が立ち上がっています。研究所・大学院課題では、研究と大学院がより密接にかかわり、研究を展開していく中で、その知的な刺激を学部の教育に返していくといった新しい学びの形の検討が期待されます。BKCの将来構想の課題においては、社系学部と理系学部のそれぞれが連動する教学展開の可能性を検討していただきます。

2015年の大阪茨木新キャンパス開設の中で、今ある京都キャンパス、BKCはどのようになるのでしょうか。

今回のR2020の中で強調している点は、新しくできる大阪茨木新キャンパスだけではなく、京都キャンパス(衣笠・朱雀キャンパス)、BKCについても各キャンパスが抱える課題を解決し、より充実したキャンパス環境をいかにつくっていくかということを検討できた点です。京都キャンパスは、名刹に囲まれたその土地を活かしたキャンパスづくりを、BKCは、緑のキャンパス、体育施設の充実などが課題となるでしょう。
また、東日本大震災の経験から、防災、安心・安全なキャンパスづくりも重要です。今後、キャンパス計画委員会のもとで原案が策定され、全学協議会の場で学生にも提案していきます。キャンパス計画委員会の検討内容を見ていますと、京都も滋賀も本当にいいキャンパスになるなぁと期待感が高まります。もちろん、教員研究室や駐輪場の不足などの緊急課題については、2015年を待たずに着手する予定です。新しい図書館構想をはじめ、キャンパス内の施設一つひとつについて教職員、学生、大学院生それぞれの立場からアイデアを寄せていただきたいですね。

R2020補正版の中では、APUや附属校のことも盛り込まれています。

R2020においては、学園の国際展開も重要な課題として位置づけています。APUでは、タイキャンパスの展開など、教育・研究の場をどんどん世界へと広げています。また、立命館大学は、G30 採択校としての取り組みをさらに進めていくことが重要です。また、この間、情報理工学部で開設準備に向けて奔走されている大連理工学院・立命館大学情報理工学院も楽しみです。この学院では中国で2年間学び、日本で2年間学ぶデュアルディグリー制をはじめ、各種プログラムが用意され、本学の先生方も教えに中国に行かれますし、学生規模は100名と大きいものです。この取り組みは、立命館の新しい国際連携のカタチであり、総長としても大いに期待しています。
附属校についても、長岡京新キャンパスの展開や2015年に創立20周年を迎える立命館慶祥中学校・高等学校の新たな展開など各校の特色が際立ってきました。今後は、日本の一貫教育のモデル校としてその存在感を増していってほしいと思います。

この間の私学情勢において、R2020はどのような意味を持つとお考えですか。

今後、18歳人口が減少していく中で私立学園としてどうしていくのか。こういった厳しい状況の中で、今回のR2020のように立命館の教育・研究について2020年までの目標を立てられたことは非常に大きな意味があります。R2020 の核心は、「多様なラーニング・コミュニティの形成」ということです。「多様な」という言葉には、正課と課外、国際性などの意味を込めています。また、コミュニティを形成する仕組みやそれを支える場としてのキャンパス整備、さらに大阪茨木新キャンパス開設をめざす中での社会人教育の展開など、今後の私立大学のモデルを作っていける計画になったと考えています。