長谷川滋利氏と現役アスリートが懇談 ポジティブシンキングの大切さを伝える

2018.09.26 TOPICS

長谷川滋利氏と現役アスリートが懇談 ポジティブシンキングの大切さを伝える

長谷川滋利氏
長谷川滋利氏

 オリックス・ブルーウェーブ(現・オリックス・バファローズ)や米メジャーリーグで活躍された本学校友の長谷川滋利氏(’91経営、オリックス・バファローズ シニアアドバイザー)が9月19日(水)、朱雀キャンパスを訪れ、学校法人立命館の森島朋三理事長と懇談された後、世界を舞台に活躍する現役アスリートやスポーツマネジメントを学ぶ学生ら7人と懇談。競技生活や海外での豊富な経験などを基に、「メンタル面の重要性」「ポジティブシンキング」「コミュニケーションの大切さ」などを伝えました。
 長谷川滋利氏は、高校時代から投手として活躍。在学時に公式戦で40勝をマークし、ドラフト1位指名を受けオリックスに入団。最優秀新人賞を獲得するなど6年間で57勝と活躍しました。そうした実績を積み上げ、97年に高校時代からの夢でもあった米メジャーリーグに進みアナハイム・エンジェルス(現・ロサンゼルス・エンジェルス)に移籍。その後もイチロー選手が所属するシアトル・マリナーズなど日米プロ野球界で通算15年間プレー。現在は米国・カリフォルニアを拠点に、人脈の広さを活かし球団に対して外国人選手のスカウティングへの助言のほか、ビジネス界でも活躍。さらにゴルフにも力を入れ、米シニアツアーにも参戦を予定するなどマルチな活動を行っています。
 ここでは、そんな長谷川滋利氏と現役アスリートの懇談の様子を一問一答形式で紹介します。

■参加者
庭野義彰さん(スポーツ健康科学研究科博士課程1回生)
野崎舞夏星さん(スポーツ健康科学部4回生・相撲部<女子>)
今日和さん(国際関係学部3回生・相撲部<女子>)
藤木豪心さん(政策科学部3回生・スキー部)
上山知輝さん(スポーツ健康科学部3回生・硬式野球部)
髙野晃帆さん(スポーツ健康科学部3回生・ボート部)
塩見綾乃さん(経済学部1回生・女子陸上競技部)

基本は「Have fun」

左から藤木豪心さん、塩見綾乃さん
左から藤木豪心さん、塩見綾乃さん
庭野義彰さん
庭野義彰さん

塩見 国際大会で力を発揮するためにはどうすればいいですか?
藤木 私もメンタルが弱いほうなので、それを克服する方法はありますか?

長谷川 日本とアメリカとの大きな違いは、アメリカ人選手は「Have fun」と言って、試合でも練習でもエンジョイしている点だと私は思います。突き抜けている選手ほど常に楽しんでいます。苦しい練習でも楽しめる、前向きに取り組めるような選手でないと最後は勝てない、一流にはなれないということだと思いますね。私もプロになって試合は楽しめるようになりましたが、なかなか練習を楽しむことはできませんでした。イチロー選手は練習の虫で、常に意欲的に取り組んでいたのを覚えています。
 メンタル面は、メンタルに関するいろいろな本を読み、球団のメンタルトレーナーに常に指導を受けていました。外国人選手と比べ身体も小さく体力面でも劣っているなかで、どうすれば勝てるか、相手を抑えられるかを常に意識し、自分の力を出し切ることを考えながら取り組んでいました。ジム・レーヤーの『メンタル・タフネス』、ロンダ・バーンの『ザ・シークレット』などは、アスリート時代はもちろん、引退して働くようになってからも役立つものだと思います。現在は電子書籍ですが、現役時代は遠征時に10冊以上の本をバッグに入れていたほどです。
 今は、緊張などもある程度コントロールできるようになっていますが、小学校時代は緊張で頭が真っ白になり何分間も無言でしゃべれなかった経験があります。そうした失敗を糧に本を読んだり、呼吸法を学んだりして克服しました。

庭野 私の場合、大勢の人の前では大丈夫なのですが、1対1で話をする際にとても緊張してしまい、落ち着いて自分の考えを話すことができません。こういう場合はどうすればよいのでしょうか?

長谷川 技術的に言えば、緊張している場面では心拍数が上がっている状態となります。普段から心拍数を計るなど意識しておき、上がっている(速くなっている)と感じたらゆっくりとした腹式呼吸を行うことで、抑える(戻す)ことができます。
 私は、いろいろな場面ごとに自分の心(精神)の状態をグリーン(正常)、イエロー(注意)、レッド(危険)の3色で色分けして捉えるようにしています。イエローの場合は呼吸などで落ち着け、レッドの場合は、一つのことに集中したりして、ほどよい状態に整えるよう心掛けています。競技はもちろん、講演会や会議なども含め、まったく緊張していない状態も、パフォーマンスを発揮する上では、よい状態とは言えません。その場合は、あえて速い呼吸を行うなどして心拍数を上げ、程よい緊張状態をつくるなどコントロールしています。こうした方法を含め、いろいろな本に載っているので、自分にマッチしたやり方を見付けることが大切だと思います。

イメージトレーニングで勝ち癖を付ける

上山和輝さん
上山和輝さん
今日和さん
今日和さん

上山 部のマネージャーを任されているのですが、リーダーとして後輩を指導したり、部をまとめていくにはどうすればよいのでしょうか?

長谷川 それぞれの良い面を引き出してあげることが先輩としての役割となります。昔のスポ根漫画のように、ダメな点を叱りつけたり注意するだけでなく、◎◎だけどこっちのほうが良いのでは、など相手に考えさせつつ、良い方向に持っていってあげる。なぜダメなのかを考えさせた上で、自ら行動させる。そして悪い面だけでなく、今日のここが良かったと、必ず良い面を褒めてあげる。そうすることで相手のやる気を引き出すことができます。
 メジャーリーグでは、選手を指導する場合、コーチが先に指摘するのではなく、投手なら試合時のビデオを観て、まず自分の反省点は何かを考えさせます。その上でコーチと選手がコミュニケーションを取り対策を考え、最後に良かった時のビデオを観て解散となります。  私の場合は、その後、車で帰宅する際に、もう一度頭の中でその日の投球や課題などを整理し気持ちを切り替えるようにしており、あえて球場から30分ほど距離のある場所に自宅を構えていました。
 スポーツに限ったことではなく、ビジネスの場面でも、良いイメージ、勝ち癖を頭の中で付けるようにすることが重要です。アスリートが現役を引退する際のインタビューなどでも印象に残っていることを聞かれ、負けた試合のことを話す場面をよく目にします。しかし、それは本来、あまり良いことではありません。常に前向きな発言をすることによって、それが成功のイメージとして頭に残り、肝心な場面でのここ一番につながります。悪いイメージが蓄積されてくると、常にそれが不安材料となり、ゴルフで言えばパターを外してしまったり、OBショットにつながったりします。いわゆるイップスと呼ばれるもので、プロゴルフや野球界にも、それに悩む選手が数多くいます。
 反省は必要です。しかし、少し能天気なぐらいに前向きに考え、常に良いイメージで終え、それを蓄積していく。これがイメージトレーニング、メンタルトレーニングと呼ばれるもので、いろいろな場面で有効なトレーニングだと思います。

 将来、相撲を五輪種目にしたい、もっと広めていきたい、その活動に携わっていきたいと考えています。アドバイスをお願いします。

長谷川 現在、その夢を言えば、笑われるかもしれませんね。私の夢は、日本のプロ野球の優勝チームがメジャーリーグのプレーオフに出場することです。今、それを言えば確実に笑い者になります。しかし、アジアリーグを作るとか、段階を踏みながらいろいろな改革を進めていければ、夢ではなくなる可能性はあります。
 私自身も、高校時代から抱いていたメジャーリーガーになる夢を、高校・大学で活躍し、日本のプロ野球に入り、そこで結果を残すなど1歩1歩段階を踏むことで実現させることができました。
 皆さんも、もう大学生なので、なぜその大会が必要なのかなど、さらに上の本質的な部分をも考えながら取り組んでほしいと思います。五輪種目にするのがベストなのか、サッカーのワールドカップのような大会を目指すべきなのかなど、普及、営利関係なども含め、勉強してほしいと思います。
 アイデアというものはすぐに湧いてくるものではありません。本を読んだり、文化に触れたり、いろいろなイベントや会議などに参加したり、人との触れ合いやコミュニケーションを通じて浮かんでくるものです。経験値の中からひらめくものなので、そうした意味でも視野を広げ、勉強に励み、さまざまな経験を積んでほしいと思います。
 スポーツでもビジネスでも、すぐに結果が出ないからおもしろく、チャレンジのしがいがあります。どうすれば強い対戦相手を倒せるのか、うまく・速くなれるのか、目的・目標を達成できるのか、その過程を楽しみながら、困難に立ち向かい、克服していってほしいと思います。

髙野晃帆さん
髙野晃帆さん
懇談の様子
懇談の様子

髙野 リーダー的な立場にいながら、なかなか自分に自信を持つことができず、本番でもとても緊張してしまいます。どうすれば、大きな舞台に自信を持って挑めるようになれますか?

長谷川 先ほどもお話した通り、緊張すること自体は決して悪いことではありません。私もそうですが、イチロー選手なども、無茶苦茶緊張するタイプです。あるシーズンの最初のオープン戦の時でさえ、いつも明るいイチロー選手が黙り込んでいて、緊張していると打ち明けられたことがあります。繰り返しになりますが緊張は、メンタルトレーニングや呼吸法などで整えることができます。
 自信は、やはりそれまでのトレーニングで養うものです。積み上げてきた練習が自信につながります。あとはやはりイメージトレーニングですね。私は家にバスケットボールのリングがありますが、何カ月もボールを触っていないと、何本シュートを打ってもなかなか入りません。でも10分間、ビデオを観るなどして入るイメージを頭の中で描くイメージトレーニングをしてから投げると、すぐに入るようになります。
 自分の良い時のビデオや好きな選手、目指す選手の動画などを観ることで良いイメージを蓄積させる。そうすることで日々の練習にも自信を持って前向きに取り組めるようになります。

大切なのはコミュニケーション力

野崎さん
野崎舞夏星さん
学生の質問に答える長谷川氏
学生の質問に答える長谷川滋利氏

藤木 今季からコーチが外国人になり、海外遠征なども多いのですが、どうすれば英語がうまくなったり、海外の選手とコミュニケーションが取れるようになりますか?

長谷川 私も今でこそ不自由なく英語は話せますが、大学時代にはじめて海外遠征を経験し、全然コミュニケーションが取れず、悔しい思いをして、気合を入れて取り組むようになりました。語学は勉強するというよりは、子どもが言葉を覚えるのと同じで、常に触れ合っていることが大切だと思います。好きな音楽や、映画を観るのがおすすめですね。最初は日本語の字幕だったものを英語の字幕に変える。分からない単語や言い回しが出てきたらアプリなどで調べながら観る。問題集は嫌でも、好きな映画なら何度でも繰り返し観ることができると思います。勉強というより、苦にならない遊び感覚で続けられる自分に合ったやり方を見付けてほしいと思います。
 スポーツでもビジネスでも、国内でも国外でも大切なのはコミュニケーション力だと思っています。語学ももちろん重要ですが、日本人として日本語でどれだけ自分の意見を言えるかどうか。日本語をしっかり勉強して、語彙力、表現力を高め、自分の言葉で相手にしっかり説明できる力を養ってほしいと思います。

野崎 卒業後、マスコミ関係に就職が決まっています。スポーツを伝える側として大切なことは?

長谷川 私も、NHKやスポーツニッポンで解説など、メディアの仕事もやらせていただいています。皆さんもご存じの通り、今は、テレビや新聞などでもネガティブな報道が多いように感じています。先ほどからも話している通り、目的・目標に向かって進んでいくには、ポジティブ思考にする必要があります。朝から夜まで、いろいろな番組で同じような内容の悪い・暗い情報ばかり流されると、それに影響され、心理的にも流される傾向があります。台風や地震の情報ばかりだと、それに備えることは重要ですが、不安感ばかりが募ってもかえってマイナスになります。被害の悲惨さ以上に、復興に向けた光の部分に注目することが重要です。
 スポーツでは、心理学的には、例えば、相手のバッターが内角が強いから投げてはいけないと意識し過ぎると、かえって投げてしまうなどがそれにあたります。負けてはいけないと考えるのではなく、絶対に勝つんだと考える。戦争はダメではなく平和を愛しましょうと訴える。メディアとして意識してほしいのは、ありのままに伝える、客観報道が大事ですが、同じ意味合いでも、こうしたポジティブシンキングを意識して伝えるようにしてほしいということ。特にスポーツの場合などは、心の片隅に置いておいてほしいと思います。スポーツに限らず世界的に成功している人たちは、ネガティブ発言はほとんどしておらず、常に前向きにポジティブな発言、姿勢を示しています。もし東京五輪の報道などスポーツに関わるようになれば、国民を巻き込み、選手の後押しになるよう盛り上げてほしいと思います。

参加者の声

塩見綾乃さん
 自分はレース前など、負けたらどうしようとか、後ろ向きな考えになりがちでしたが、今回お話をうかがい、練習でも試合でも常にポジティブに考え、楽しむ心で取り組んでいきたいと思いました。長谷川さんはもちろん、他の選手のメンタル面の話も聞け、とても参考になりました。

藤木豪心さん
 自分も海外での試合が多いので、国内を含め海外で活躍されてきた経験を聞けたことはともてためになりました。映像を参考にすることも、これまで失敗の映像を見て直すという活用法でしたが、今後は最後に成功の映像を見てイメージづくりに生かしていきたいと思いました。